「乱氷」という言葉を初めて目にしたのは中学1年の頃、故植村直己氏が書かれた著書の中で北極点への単独到達に挑んでいるシーンでした。全く同じ状況ではありませんが、文庫本の小さな写真の中でしかなかった光景を、目の前で全周見られる日が来るとは思いもしませんでした。片や犬橇、片や南極観測船「しらせ」という違いが大きすぎて、苦笑がもれるのは仕方がありません。氷海に入る前の12月7~9日にかけておこなわれた、しらせ大学(64次隊の記事を参照)の講座の一つで、石山隊員から「しらせ」は世界的に見ても砕氷能力に優れた船であることを紹介していただいていましたが、その「しらせ」を以ってしても乱氷帯を航行するのはなかなか骨の折れることなのだということを、身をもって経験できる貴重な機会を得ました。南西向きの風が流氷を集めて、短期間で定着氷との間に強固な乱氷帯を形成したのです。
前回のブログにて安眠できるかどうかを心配したのですが砕氷航行中、特にラミングで船を前後進させる際に大きな振動と騒音に襲われます(無神経が幸いして朝までしっかり睡眠できましたが)。寝室を同じくする、教員南極派遣プログラムで隊に同行している南迫さんと「これは震度4あるでしょう」、「いや3くらいじゃないか」と埒も無い議論を交わしながら、これも得難い経験と思い直して、しっかり録音しておくことにしました。配慮だったか偶々だったのかは分かりませんが、食事時間帯に砕氷航行が一時中断されたのが助かりました(お茶や汁椀が零れないか心配になります)。
ブリッジや舳先からラミング砕氷の様子を観察しつつ船の動揺にも注意を向けると、氷に乗り上げて押し潰しているのを体感できます。「この調子でどんどん進めそうだ」と思いきや、そうは問屋が卸しません。乱氷帯は定着氷と異なり「しらせ」を取り囲む氷が大小様々な氷塊が密集した群氷となっているため、「しらせ」が掻き分けた氷塊が船尾に回り込み、ラミングで助走をつけるための海面を塞ぎ込んでしまって、砕氷距離が思うように伸びないのです。ついには海風で乱氷帯が動き出し「しらせ」はそれに巻き込まれる形で西へと流されるシーンもあって、1次隊を乗せた「宗谷」の東オングル島までの到達は努力だけでなく運にも恵まれていたんだという思いを強くしました。この「しらせ(二代目)」も過去2回、昭和基地接岸を断念せざるを得なかったことがあります。
自然に抗える限界を知りつつも「しらせ」は、65次隊の南極観測と基地機能の強化を支援すべく、昭和基地まであと約85km(昭和時間12月15日22時)の距離に立ちはだかる氷に24時間体制で挑み続けてくれています(広報隊員は休ませていただきます)。
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
三歩進んで二歩下がる、を繰り返す「しらせ」のラミング砕氷航行の様子
撮影・編集:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月15日)
(JARE65 丹保俊哉)