61次隊はトッテン氷河沖集中観測の真っただ中です。なぜわざわざトッテン氷河沖まで行って観測をするのか、という肝心なところをまだお伝えしてませんでした。ちょっと堅い内容ですが、Q&A方式でお伝えします。
まとめ
★トッテン氷河は東南極最大級の氷河。流域の氷がすべて融けると約4メートルの海面上昇が予測される。
★トッテン氷河の末端部分は海に突き出していて、その下に流れ込んでいる“暖かい海水”が氷河を融かしている。
★“暖かい海水”の流入経路やその量、季節変化、経年変化などはまだ良く分かっていない。61次隊での集中観測でその解明を目指す。
<Q1>トッテン氷河はどこにある?
オーストラリアの西側を真南にたどり、南極にぶつかった辺りにトッテン氷河の末端があります。南緯66.5度、東経116度付近です。東南極では最大級の氷河です。
<Q2>なぜトッテン氷河の観測をするの?
研究者の間では、南極で次に大規模融解を迎える氷河はトッテンでは、と言われています。トッテン氷河の流域は広く、流域の氷がすべて融けると、海面が約4メートル上昇すると予測されており、融解の起こる仕組みの解明が求められています。
<Q3>氷河の研究なのに、なぜ海で観測をするの?
氷河の末端は海にせり出しているので、海水が氷河の下に流れ込んできます。特にトッテン氷河末端付近は、地盤が海面よりも下にあるため、ここに、マイナス0.4℃程度の“暖かい海水”のかたまりが入り込み、氷河を下から融かすことが分かっています。
パンフレット「南極観測」のデジタル版はこちらからご覧いただけます。
今後、気候変動によって“暖かい海水”がさらに暖かくなった場合、氷河の融解が加速することは避けられません。61次隊では、この“暖かい海水”が「どこから」「どの程度」やってくるのか、“暖かい海水”の流入や氷河融解プロセスの解明を目指して、トッテン氷河沖の集中観測をしています。
<Q4>どんな観測をどれくらいするの?
使用している主な観測項目(観測機器)を紹介します。
・採水器付CTD/採水器付CTD-LADCP
ケージに備え付けられたCTD測器を、船から海に投下し、400メートルや1000メートルなど、ある深さまで沈めてから回収します。深さごとの海水温、塩分を測定します。あらかじめ決めた深さで採水できるボトルもついています。LADCPという、流速と流向を測定できる機器が一緒になったものを使うこともあります。
観地点を変えて何度も測定することにより、水温、塩分の空間的な分布を調べます。
・XCTD
空気砲のような形の装置を使い、長いニクロム線がついた測器を海に投げ込みます。測定器は海に沈みながら、水深と水温、塩分を連続的に測定し、ニクロム線を通じて船上にデータを送ります。これもCTDと同様、水温、塩分の空間的な分布を調べます。
・AXCTD
ヘリコプターから、水温や塩分、水深が測定できる発信機付きの測器を投下します。詳しくは12月11日の記事をご覧ください。
・海底地形測量
海底地形は、トッテン氷河沖でどのように海水が流れ込んでくるかのシミュレーションをする際の基礎データとなるため、非常に重要です。測定方法について詳しくは、12月3日の記事をご覧ください。
・ROV
観測機器の備え付けられた小型の無人潜水艇を船上のオペレーターが操作し、氷の下を潜らせて観測します。詳しくは12月12日の記事をご覧ください。
・係留系: 海中に測器を設置。数か月~1年、同じ場所で水温や塩分の測定を続けます。
・ApRES: 氷河の厚さを継続して測定する機器。氷河上に設置し一年後に回収します。
・採泥観測: 海底堆積物を採取し、過去の海洋環境を調べます。
(以上3つについては今後詳しくご紹介します)
これらの観測を、トッテン氷河沖の海域で位置を変えながら実施します。下の図で、丸や菱形で囲まれた数字の位置(ちょっと小さくて見づらいのですが)が、ある時点での観測ポイントの候補地です(観測ポイントは海氷状況などにより、観測期間中に適宜変更されます)。「集中観測」の名のとおり、海域を細かく観測していることがお分かりいただけると思います。
トッテン氷河沖集中観測はまだまだ続きます!
(JARE61 寺村たから)