海氷下の秘密

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南極海は世界で最も科学の眼が届いていない海ですが、研究を阻む理由のひとつに海氷の存在があります。とくに冬季は、我々が現在観測を行っている南緯61度付近まで海氷に覆われ、海鷹丸はそこから先へ進むことはできなくなります。氷の厚い場所では、砕氷船でも海氷域に入るのは困難なのです。結果的に我々が知っている南極海はそのほとんどが夏の姿、ということになります。周年にわたる生物の暮らしを知らずに、生態系は理解できません。

そこで、「係留系」を使うことにしました。係留系は全体で4000 m弱になるようロープをつなげ、その途中に水温・塩分計、流速系、セジメントトラップなどの各種計測器を配置した観測システムで、浮きを使って海底から立ち上がるように設計されています。こちらもご覧ください。

我々はちょうど1年前、この場所の海底に係留系を設置しました。各種センサーは1年間データを蓄積します。つまり、うまく設置されセンサーが作動していれば、冬季の海氷下でも調査船に代わってデータを取り続けているという寸法です。今日はこのシステムを、音波信号を使って海底から切り離し浮上させ、1年ぶりに回収することに成功しました。

セジメントトラップ。
撮影: JARE61 茂木正人(2020年1月16日)

写真は、その観測器のひとつセジメントトラップです。海中を降ってくるマリンスノーなどの沈降粒子をさかさにした三角コーンで補足し、その下に設置したプラスチック容器に集める装置です。容器はあらかじめ設定した任意の期間(例えば2週間とか1か月とか)で自動的に交換されていきます。サンプルには、植物・動物プランクトンの死骸や糞粒などが含まれており、その他のセンサーデータや衛星情報を合わせれば、その期間の生物の活動を推定することが可能です。南極海では、きわめて貴重なデータが得られているはずです。慎重に容器を外し、サンプル処理を行っていきます。

 

17日、遠くに氷山が見えたり、観測中にクジラが現れたり、また、夜がだいぶ短くなったり、南極感はだいぶ出てきましたが、天候はここしばらく曇りがち。観測はかなり厳しいスケジュールに突入していますが、海鷹丸チーム北出裕二郎主席の判断で、必要なタイミングで休息の時間を入れながら進行しています。

 

前夜から未明にかけて、大型のフレームトロールネットMOHTによる観測が行われました。MOHTは網口が5m2の開閉式のネットで、比較的大きいサイズのプランクトンや小さい魚類を採集するためのネットです。網地に特殊な細く強い繊維が使われているため細かい網目でも水を通す効率が高く、結果として短時間で大量の水を濾すことができ、めずらしい生物が採集されやすくなります。

メラノヌス・グラシリ。
撮影: JARE61 茂木正人(2020年1月17日)

写真はメラノヌス・グラシリスMelanonus glacilisという魚で、深度600-800 mで採集されました。広い意味でタラに近いグループです。採集例は少なく、じっさい私も初めて見ました。やや古い情報ではありますが、手元の資料を見ると、南極海ではこれまで4個体しか採集記録が無いようです。めずらしい生物を採ることが目的ではありませんが、やっぱりわくわくします。でも、こうやって写真見てみると、いくらめずらしいと言っても、地味だなあ。

インスタ映えしない。

 

JARE61 茂木正人)