ドーム隊の14名を含む先遣隊は10月27日に日本を出発しました。このタイミングでこれまでの国内準備をダイジェストで振り返りたいと思います。とても多忙な準備期間でしたが、万全の準備が整いました。現場でも掘削が順調に進むようチーム一丸となって頑張ってきます!
〇掘削訓練
7月16-18日には深層掘削機の開発元企業にお邪魔して、掘削訓練を行いました。この日は深層掘削が始まる前の最終訓練であり、完成したセンサなどを含む電装部を掘削機に組み込み、実際の掘削の流れをイメージしながらウィンチとドリル、コンピュータを操作しました。現場で練習通りに行くとは限りませんが、こうして国内で準備が整ったことは掘削チームの自信になりました。
〇コア解析訓練
7月に3週にわたって極地研の低温室でコア解析訓練を行いました。66次隊とそれ以降の隊次に参加する予定のある人が参加し、氷の誘電率と電気伝導度を測る装置(DEP: Dielectric profiling)と水平バンドソーの実技訓練を行いました。65次隊で掘削された長さ120m分のコアを実際に測定し、普段アイスコアに触らない隊員もコアの扱いに慣れることができました。現場解析の項目は、第2期深層コア掘削(2003年~2007年)の内容を踏襲したものです。ただし、今回は測器をドームふじ拠点Ⅱに持ち込み、新しく立ち上げる必要があります。今年は迅速かつ確実にコア解析の流れ作業を確立し、コア解析に着手することが目標です。
〇水安定同位体比分析装置の組み立て・測定訓練
アイスコアの水安定同位体比から、雪が降った当時の気温を推定することができます。近年の装置の小型化に伴い、第3期深層掘削プロジェクトでは水同位体比分析装置を現地に持ち込み、その場で測定を行います。国内に持ち帰るコアの分析を待たずに、現場でアイスコアの大まかな年代決定をすることが期待できます。現場担当者は国内担当者から装置の組み立てと測定のレクチャーを受けました。
〇打ち合わせ
8月以降は週に一回のドーム隊ミーティングを設けました。極地研近傍に住む人は直接参加し、遠方の人はオンライン参加です。また66次隊でのドーム旅行に参加する65次越冬隊の3名、ときには越冬隊長にもオンラインで参加してもらいました。国内準備スケジュールの調整、現場での行動計画や橇編成の確認、越冬隊の方々からのドーム旅行の準備状況の共有など、とても有意義な機会でした。
〇高所訓練
9月4-6日には富士山で高所訓練を行いました。我々が滞在するドームふじは標高約3,810mに位置し、気圧は約600hPaです。少なからず頭痛や息切れなどの高度障害の影響を受けるため、同等の高所を未経験の隊員は訓練に参加し、高所ではすぐに息が切れて平地と同様の活動はできないことを身をもって体感しました。また、山中では医療隊員から高度障害に関する講習、野外支援隊員からはロープワークの講習を受けるとともに、ハンディGPSや携帯型簡易気象計の使用訓練も行いました。
〇航空便で送る物資の梱包
9月に入ると物資梱包で多忙を極めます。まずは、航空便で持ち込む物資の集積、梱包です。今年は掘削孔の検層機や、アイスコアの誘電率や水安定同位体比の測器、ほかの観測部門の物資があり、早い段階で航空便の物資の重量制限を超えることが判明しました。そのため、観測物品の予備や個人装備を極力減らすなどの最終調整を行い、なんとか10月2日に極地研から約110梱の物資を搬送することができました。物資は南アフリカのケープタウンにあるドロンイングモードランド航空網の運営管理会社に輸送され、その後先遣隊と一緒に昭和基地まで輸送されます。
〇しらせで送る物資の梱包
航空便の物資搬送が終わると、今度はしらせで輸送する物資の集積と梱包が始まります。この物資は、来年度67次隊でのドーム旅行で使用するものです。掘削場で使う衣類、旅行中に消耗する生活用品、観測物品、アイスコアを梱包するチューブ状の袋や特注のコアケースなど合計約170梱を12フィートコンテナ2つに搭載しました。今年は1200m分のコアケースを持ち込みますが、その段ボールだけで約70梱になりました。この梱包作業が終わると、先遣隊の隊員は私物の梱包や休暇をとるなどし、10月27日に日本を出発しました。
〇低温室でのアイスコアツアー
先遣隊は、12月末にしらせが昭和基地に到着する前に食料や橇、車両整備の準備を整えて内陸に出発するため、前次隊の越冬隊の協力が欠かせません。同様に66次越冬隊も67次のドーム旅行に向けて準備を行います。そこで、今年は越冬隊員にドーム旅行の主たる目的を理解してもらうために極地研の低温室を案内するアイスコアツアーを企画しました。第2期深層コア掘削(2003年~2007年)で掘削したコアの現物を展示し、氷の特徴や空気成分を使った古環境復元の話、コアが掘削されて極地研の低温室に保管されるまでの輸送経路の話などをさせていただきました。多くの方に強い関心を持っていただくことができました。
(JARE66 井上 崚)