インテルサット衛星を介して昭和基地がインターネット回線と接続できるようになったのは、第45次南極地域観測隊によって2004年に衛星通信インフラが整備されてからのことです。以降この通信インフラが維持されていることで、昭和基地で得られた観測データを国内に常時伝送することができるようになっています。また、こうして観測隊ブログを日本に届けたり、教員南極派遣プログラムによる南極授業が実現したりと、南極観測事業に関して多くの情報発信が可能になりました。
もしこの通信インフラが維持されなくなってしまうとすると、広報隊員の役割は即終了することになります。情報発信は社会に南極観測事業を理解いただき成果の一部を還元するとても大切なことですし、国内外と研究活動のために電子メール等で連絡を取り合う観測隊員も少なくないはずです。もし私が関係者だったら立派な仕事に関わることが出来たとやっぱり胸を張りたくなるでしょう。
しかし「他の設営系の業務とは違って、通信回線が切れてしまったとしても直ちに隊員の生死に関わることでもないので、肩の力を抜いて落ち着いて着実に役割を果たしたい」と意外にも冷静な抱負を述べてくれたのは第65次南極地域観測隊LAN・インテルサット担当の津町隊員です。その落ち着いた口調に「この人なら自分の仕事を間違いなく維持してくれそうだ」という安心感を覚えることができた広報隊員でした。
1月5日、昭和基地のインターネット回線の出入口であるインテルサット制御室内を訪れたのは、衛星通信のための機材と回線の切り替え作業を取材するためでした。それらの機材と回線は冗長性確保のために全てA系統とB系統に二重化してあり、半年に1度のペースで系統の切り替え作業が行われています。「機材は使用しないと劣化が早まってしまうので面倒でもこの作業はとても大切なことです」と第64次観測隊LAN・インテルサット担当の中村隊員が解説してくれました。
制御室内には12種類の関連機器がサーバーラックや壁に固定されていています。今回はその一つ一つを津町隊員が手順書を確認しながら順にB系統からA系統に接続ケーブルを付け替えて機器の電源立ち上げと立ち下げを進め、それを中村隊員が見守りつつ津町隊員の質問に応えてアドバイスするという流れで作業が進められていきました。
「前日に行われた分を含めて約290の手順数があって今日はそのうちの250手順を完了させる必要があります」と中村隊員が解説を続けてくれます。回線切り替え作業中はインターネット回線が止まってしまうのですが、定期的な測定データの送信にインターネットを使用している観測チームのために慌てずに落ち着いて切り替え作業が進められていきます。
とはいえこうした作業にトラブルは付き物なのか、中村隊員は過去2回の切り替え作業の両方ともでトラブルを経験したとか。「その瞬間は焦ります。今まで切り替えてきた系統を元に戻すことも考えましたが、その時はトラブルがあった機器1台だけ系統の切り替えを諦めて乗り切ることが出来た」そうです。今回もそのようなことがあると広報隊員は仕事を失いかねないので津町隊員に声にならないエールを送りつづけました。その甲斐があったのか津町隊員は無事に系統切り替え作業を終えることができました。
ふと「電気や水道、通信といったインフラは使えて当たり前。感謝されることは少ない」と溢した中村隊員ですが、私も規模や種類は全く異なりますが元の職場で各種LAN機器の保守や機能設定を担ってきた手前、その役割の大切さを痛いほど分かっているつもりです。とはいえ私自身、身近にあることが余りにも当たり前過ぎて、無くなってしまったときの備えを疎かにしてしまいがちです。皆さん、偶にはスマートフォンを1日触らない日を作ってみては如何でしょうか。
(JARE65 丹保俊哉)
衛星回線設備の運用保守訓練
https://nipr-blog.nipr.ac.jp/jare/20231026post-406.html