昭和基地が建設された東オングル島には様々な形状のアンテナが点在していて、国土地理院が公開している南極地形図でも幾つもの電波塔の地図記号で表されているのを確認することができます。その中でもひときわ存在感を主張している施設の一つ、HF(短波)レーダーで1月3日、保守作業が行われるとのことで広報隊員もついていくことにしました。
広報隊員が向かった先は、蜂の巣山(標高43m)の東部にある第1HFレーダーアンテナという施設です(地理院地図ではこちら)。ここには高さ15m程の空中線(アンテナ)が20基建てられていて、更に東方にもう20基のアンテナで構成されている第2HFレーダーアンテナとともに広大な南極域上空の電離圏を注視しつづけています。
このアンテナの仕組みと役割の詳細については行松越冬隊長が「宇宙天気・宇宙気候現象のモニタリング観測」にて解説しています。また今回の保守作業のやり方については、観測隊ブログ「菅平HFレーダー保守訓練」にて紹介されている方法と同様です。では何故改めてとり上げたのかといいますと、上の記事の行間で省略されてしまった担当隊員の苦労を皆さんに知って欲しいと思ったからです。実はタワー1基を地上に寝かせてアンテナを修理し再び起こすまでには、少なくとも4名程の隊員掛かりでほぼ1日仕事になるのです。文字として書くよりは実際に作業の進捗を映像で見ていただく方が分かりやすいのでタイムラプス映像にしました。
朝から夕方までかけて修理を完了させる様子をタイムラプス映像として記録しました。高所作業は講習を受けた隊員が装備を整えて行っています。撮影:JARE65 丹保俊哉(2024年1月3日)
改めて文字として作業概要を記すと、まずタワーの基台を固定している蝶番の動きを固定しているボルトを外してから、タワーを保持している周囲の支線の展張具合を、ウィンチを使ってそれぞれタイミングを合わせながら調整しブームの片方が地面に着くまでタワーをゆっくり寝かせます。次にブームの台座にある蝶番の動きを固定しているボルトを外して90度回転させ、タワーとまっすぐに揃えたところで更に支線の展張を調整し、ようやく地上に寝かせることが出来ます。またタワーの再起立はこの逆手順です。
映像で見ると簡単に作業が進んでいるように見えますが、文字にするとなかなか大変な作業を行っていることが理解いただけるのではないでしょうか。下記の写真はアームの台座を留めているボルトとナットを鉄骨の両側から2名の隊員掛かりで外している様子です。
こうした地道な保守作業によって国際的な観測網の一翼が維持され、超高層大気や宇宙天気の研究が支えられていることを広報隊員は初めて知り尊敬の念を強く持ちました。今日は夏期シーズンとあって好天で風の穏やかな中での作業でしたが、越冬期間中にも破損の発生に応じて作業を行わなければなりません。極寒の中での作業の過酷さを思い、ため息が零れてしまいました。どうかご安全に。
(JARE65 丹保俊哉)