1月5日の朝、広報隊員はオングル諸島の一つ、岩島近くの海氷上まで出てきました(地理院地図)。以前同行取材した海氷チームでは人がソリを引っ張って調査しましたが、今回のお魚チームでは高い移動力と運搬能力を誇るスノーモービルに同乗し、東オングル島の北の浦より約2.8kmの距離を15分程で到着しました♪
お魚チームによると、海氷の厚さは1m程と、海氷チームを取材したときの半分近くの厚さしかありません。それでもスノーモービルを運用するには十分な厚みであることと、運用範囲の海氷状況は事前に下調べされているので、使える限りはどんどん運用して調査の能率を上げるべきですね(海氷チームも使えるときはちゃんとスノーモービルを使っています)。
お魚チームは、海氷に閉ざされた海の、魚類の行動・資源量と海洋環境の関係性の解明を目指して調査活動を進めていて、幾つかの調査項目を複数年次に渡って実行していく予定です(詳しくはこちら)。今回の取材では、事前に捕獲した魚類に「ピンガー」と呼ばれる超小型超音波発信器を付けて放流する作業と、発信器から定期的に発信される音を捉えて魚の位置や動きを観測する超音波受信機を海中にロープで懸下する作業を取材しました。
今回選ばれた魚種は、ショウワギスの他、ウロコギス、ヒレトゲギスで、いずれも魚体の大きな個体、計15匹でした。海水に炭酸(重曹)を溶かした水槽に魚を入れてしばらくすると、麻酔がかかり動きが鈍くなります。そしてすばやくピンガーを装着したら、生け簀の中に放して動きが戻るまで休ませます。
15匹全てにピンガーを装着し、全長や体重などの計測を終えたところで12時に。氷上でランチを手早くいただくと、次に受信機の準備に移りました。受信機が海面から約10m下の水中に懸下されるように調整しながらロープに縛り付けていきます。予め設定された海氷上の一辺が約200mの正三角形のエリアの頂点と各辺の中点、計6か所から受信機を海中に下ろして固定します。そして正三角形の重心点からピンガーを装着した魚たちを放流したら終了です。
ピンガーの電池が切れる2週間後まで受信機を作動し続けた後、受信機を回収、観測データは国内で解析される予定です。海中を伝わる音波の速度は三角形の範囲ではほぼ均質であると見なして、3つ以上の受信機でピンガーの信号を捉えることが出来ればそれぞれの時間差から信号源(挿入した魚)の位置を定期的に特定できるという仕組みです。
今回の魚たちは、底生で比較的行動範囲の狭い特徴の魚種が対象とされていました。その魚たちの夏期の行動を定期的に計測して追跡、特徴を探り出します。「魚が海底に戻って行く様子を観察してみませんか」と広報隊員から提案し、水深5m程のところに360度カメラを潜水ケースに入れて、放流の様子を動画で撮影してみました。
こうして観察すると体調の差なのか個体差なのか、泳ぎ去る様子には結構な違いがありますね。撮影:JARE65 丹保俊哉(2024年1月5日)
15匹全ての行動が記録されて、そこから面白い特徴が割り出されることを心から期待した広報隊員でした。
(JARE65 丹保俊哉)
試みに受信機を懸下した海氷の穴から、360度カメラを水深30m程の海底まで下ろしてみました。100m程度の海底を好むと聞いていたショウワギスですが、好奇心も露わにサッと近寄って出迎えてくれました。注意深く観察すると、結構急ぎ足で泳ぎ寄ってくる様子が見えます。撮影:JARE65 丹保俊哉(2024年1月5日)