8月29日から8月31日まで、長野県菅平高原の電気通信大学宇宙・電磁環境センター菅平宇宙電波観測所で、65次隊の宙空圏関連隊員によるHF(短波)レーダー保守訓練を実施しました。
国際共同プロジェクトであるSuperDARN (Super Dual Auroral Radar Network) では、世界中に設置された35基以上のHFレーダーで、南北両半球の極域から中緯度域の超高層大気の動きや電場の分布などを観測していますが、このうち2基が昭和基地にあります。
それぞれ高さ約15mのアンテナタワー20本が立ち並ぶHFレーダー施設は昭和基地でも一二を争う大規模なもので、荒涼とした東オングル島内でひときわ威容を誇っています。
レーダータワーの上部には魚の骨のように10対のアンテナ素子が並んでいますが、強いブリザードによって、このアンテナ素子が破損したりアンテナを固定しているケーブル類が外れるなどの被害がしばしば発生します。昭和基地のHFレーダー施設は基地中心部から約1㎞離れた丘の上にあり、現場にクレーンなどの大型重機を持ち込むことは困難で、越冬中の修理は人力で行う必要があります。
タワーの根本とTの字の接合部にはヒンジ(蝶番)があり、固定用のボルトを外せば人力のウィンチで引き倒せる設計になっています。タワーを寝かせれば地上15mの高所に登って何mもあるアンテナ素子を取りまわす必要もなく、地上で修理作業ができるという寸法です。
タワーの起倒には、四方の支線ワイヤーのアンカー部にそれぞれ配置された全員のチームワークが必要ですが、動力源となるのはほぼウィンチ担当ひとりの力です。このウィンチを漕ぐのは南極でも一汗かくほどの労力ですが、涼しいはずの菅平高原も今年はしっかり夏らしい暑さ。三人で交代しながら汗だくになってウィンチを漕ぎましたが、おかげで夜はたいへん美味しいビールが飲めました。
(JARE65 佐藤丞)
手動ウィンチを使ってタワーを倒していきます。
撮影:JARE65 佐藤丞(2023年8月30日)