作戦は常に変更される ~トッテン氷河沖集中観測を終了~

3月9日午前1時、「しらせ」はトッテン氷河沖の海域を抜け、東に進み始めました。これをもって、往復路合計約5週間に及ぶ「トッテン氷河沖での大規模海洋観測」(通称:トッテン祭り)が終了しました。復路トッテン祭り終盤の模様をダイジェストでお届けします。

 

3月3日:海底地形調査からの係留系設置

第3観測室で海底地形測量の観測データをリアルタイムで見守る隊員たち。目星をつけた場所に船が着き、観測データを確認すると、海底にはっきりとした谷を見つけることができました。

61次隊では、氷河を下から融かす温かい海水が、どのように沖合から流れ込んでいるのかを重点的に調べています。温かい海水は比較的深いところを流れているので、海底に谷があれば、そこに沿って流れこんでいる可能性が高くなります。今次の航海で設置する最後の係留系*は、その谷に入れることに決まりました。

*係留系:一定の期間、海の特定の場所に設置し、海水温や塩分の経時変化を調べる観測器。係留観測について詳しくはこちら。

モニターをのぞき込む観測隊員
「しらせ」の第3観測室で、海底地形の観測データが映し出されるモニターをのぞき込む観測隊員。
撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月3日)


すぐに野口隊員・渡部隊員・小野隊員・久野隊員らが係留系の準備をします。係留系は水深に合わせて構成を変える必要があるため、隊員らで相談し、確認しながら組み立てます。

係留系の準備
係留系の準備。撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月3日)

投入は無事に終了しました。

明日は、先日回収できなかった係留系の回収リベンジに向かいます。

 

3月4日:極寒の中、リベンジ成功

昨年12月17日に海底に設置した係留系の回収です。トランスデューサーを海に下ろし、係留系に音波で信号を送ります。数日前と違い、今度は係留系から「錘の切り離し完了」の信号が返ってきました!

今回の成功のカギは、トランスデューサーをタオルで巻き、音波の強さを適度に小さくしたこと。前回は、係留系との距離に比べて音波の出力が大きすぎて、係留系に直接届く信号と、海底や水面で反射した信号とが合わさってしまい、うまく伝わらなかった可能性があったようです。しばらくすると、海面に浮いてきた係留系を艦橋で視認したとの情報が入りました。

係留系
海面に浮かんだ係留系の「浮き」の部分。撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月4日)

「しらせ」乗員の皆さんにより、係留系を船に手繰り寄せ、揚収が無事に完了しました。この日は特に寒く、ハードな作業となりました。

係留系の揚収
係留系を船に引き上げているところ。あまりの寒さで海水のしぶきが一瞬で凍結し、氷の粒になるため、甲板にガラスの破片が飛び散ったように見える。撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月4日)

 

3月5日:トッテン氷河沖 最後の停船観測

この日は2か所での停船観測を実施しました。

海洋観測
プランクトンを採取するネット。撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月5日)

Kグラブ採泥器
Kグラブ採泥器。撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月5日)

この日の観測の終わりに、海洋観測に携わった観測隊員と「しらせ」乗員の皆さんで記念写真を撮りました。

集合写真
みんないい笑顔。撮影:JARE61 寺村たから(2020年3月5日)

「しらせ」乗員の方が作成してくださった看板(写真右下)には、「作戦は、常に変更される」という深い一文が。海氷状況や観測データに対応して計画を柔軟に変更した、61次航海を象徴するような言葉でした。

トッテン氷河沖での海洋観測に携わったみなさん、本当にお疲れさまでした!

(JARE61 寺村たから)