想像してみてください。28日間インターネットにアクセスできない生活を。
皆さんは最近そんな経験をしたことがありますか。近年は、乗船研究者がメールくらいは利用できる環境を備えた調査船が増えてきたようですが、この航海ではインターネットどころかメールの利用も制限されています。ただし、業務上必要な通信は別です。皆さんがいま読んでくださっているこの原稿とサイズを落とした写真は、衛星回線で日本に送られ、日本の担当者によってページに掲載されています。実は昨年までファックス新聞が配信されていたのですが、船舶のインターネット環境が改善されて需要が減ったためか、このサービスの提供が中止されてしまいました。世の中で何が起こっているのか、ここでは知る術がありません。そして、若者が数十人、しばらくの間この環境で暮らします。素敵な経験ですね。
1月12日は、毎年決まった場所でのモニタリング観測があったのですが、海況が悪く深夜に観測を断念し先を急ぐことが決定されました。次の観測点到着予定時刻は夜になるので、日中はトリ活(前回の記事を参照)です。
写真はハシボソミズナギドリ。これからヒナが待つオーストラリアのタスマニアまで帰る群れと思われます。このトリ、北半球の夏には、東日本から北海道を経て北極海まで渡りをします。世界で最も長距離を移動する動物です。
時化は続き、13日の夜も粉雪舞う厳しい条件下での観測で、中断したり一部の観測項目が中止となったりしましたが、14日の朝、なんとか観測を終了し、南緯59度に向けて航走。海洋観測は自然が相手なので、計画通り進むことなど普通はありません。海況の悪化は天から降ってきた災い、すなわち天災。天に向かって文句を言う人なんていませんよね。くよくよしたり愚痴を言ったりしても始まりません。あきらめが肝心。夜になって、少し海が静かになってきたような。
14日の夜から研究者はシフト体制に入りました。研究者は【Two teams】に分かれて24時間の観測に対応します。自分の研究に直接関係がなくても、その時間に行われる観測に対応するシステムです。12時間ずつ観測に出るわけですが、普通は12時間休めるわけではなく、反対側の12時間も、自分の担当の観測項目があればサンプル処理だけでも対応したり、航走しながらの観測があったりで(例えばトリ活も)、そんなにのんびりもできません。結局昼も夜もなく、空いた時間を見つけて睡眠を取る生活です。ふたつのチームで24時間を補完し合う体制なので、やっぱり【One team】でした。
南緯58度を超えた付近から氷山が見え始めました。
氷山の写真でも出さないと、我々が南極に来ていることを信じていない読者もいるかもしれません。などと考えながら、休憩時間に自分の船室から窓越しに氷山をながめていたら、目の前にザトウクジラが現れました。
ホントに目の前でした。
一瞬だったので写真は撮れませんでしたが、ホントです。
私はよく嘘をつきますが、これはホントです。
嘘みたいな光景が南極海には広がっています。
(JARE61 茂木正人)