1月10日、「海鷹丸」は予定より4時間遅れた朝8時に最初の観測点に到着。風もなく、波も静か。観測している船の周辺をワタリアホウドリ、マユグロアホウドリ、アカアシミズナギドリが舞っていました。最初なので、ひとつひとつ手順を確認しながら観測を進めます。まだ南極海ではありませんが、生物系の科学者は、採集された生物を見るとやはり気持ちがうきうきします。こんな気持ちや新しい発見をしたときの感動を大切に生きています。
この私も魚類学者です。「海鷹丸」の南極航海では過去7回首席研究者として乗船しましたが、今回は9年ぶりに一メンバーとして参加しています。首席は観測全体を統括するので観測中はブリッジにいる時間が長く、私の場合はデッキ作業や採集物の仕分けなどをこれまでほとんど他のメンバーに任せていました。この日は久しぶりに現場で魚を観察し、楽しい気持ちになりました。
1月11日、大しけ。
ORIネットと呼ばれる大きなプランクトンネットを船から引っ張って、魚のこども(稚魚)を採る計画ですが、風は時間が経つにつれて強くなっていきます。実は、昨年同じネットでの観測を大しけのなか、私の判断で強行し、ワイヤーの破断によってネット一式を逸失した前科があります。今回もそれを思い出しつつどうすべきか慎重に検討しましたが、今回も決行を決め、メンバーにお願いしました。そして、貴重なデータを得ることに成功!いわゆる暴風圏はいつ来ても大しけなので、幸運と優秀なメンバーに恵まれないとこのようなデータを得ることはできません。皆様、無理をお聞きくださりありがとうございます。
1月12日、今日も大しけ。船足が出せないのでなかなか観測点に着きません。着いても大しけかもしれないので観測できるかさえ分からない状況です。海面から14 mの高さにあるブリッジも波で洗われます。
そんな中、メンバーは観測を着実にこなします。海鳥の観測メンバー(通称:トリ部)はブリッジで観測を行います(トリ部ではトリ活と呼ばれています)。普通、海鳥の観測は屋外で行うようですが、南極海でそれをやったら死に直結です。活動場所がブリッジなので天候を選びません。海鳥類は食物網の頂点かそれに近い位置にいる高次捕食者のため陸と海を行き来し、長距離を短時間で移動することができるので、海洋と陸上の生態系を効率的につなぐ生物ともいえます。しかし、実際には研究の難しさからその生態はまだまだ不明な点が多く残されています。トリ部は、海鳥類の海洋生態系における役割の一端を解明することを目指してトリ活を行っています。私もトリ部のメンバーのひとりです。トリ部のターゲットのひとつハシボソミズナギドリは、私の研究対象ハダカイワシ類を食べていると考えられており、彼らの生活は私にも興味があるところです。
今日のトリ:マユグロアホウドリ、ミナミシロハラミズナギドリ、ハグロミズナギドリなど
(JARE61 茂木正人)