1月15日、国土地理院の兒玉篤郎隊員は南極大陸に向かいました。同院が担当する「定常観測」の一つ、「氷床変動測量」のためです。南極大陸を覆う氷(氷床)がゆーっくりと海に向かって動く、その速さと方向を調べる観測です。
「定常観測」は、国際的・社会的な必要性に基づき、気象庁や海上保安庁、情報通信研究機構といった省庁等が担当する観測項目を指します。国土地理院からは毎年、夏隊に1名が参加し、昭和基地付近の測量や、航空写真の撮影などの定常観測を行っています。
兒玉隊員を含む7名のチームは、1月15日の昼過ぎ、ヘリコプターで昭和基地を出発し「S17航空拠点」に降り立ちました。S17航空拠点(以下、S17)は南極大陸沿岸から15キロメートルほど内陸に入ったところにあり、普段は無人ですが、その名のとおり、航空機の滑走路として使われることもあります。
インスタントラーメンで簡単に昼食を済ませた後、S17にデポ(留め置き)されている雪上車3台に分乗して観測に向かいました。まずは「P50」という観測地点へ。
昨年の隊員が観測場所に立てた、赤と白のボーダー柄の棒を探します。大体の位置の情報はありますが、氷床が動いた分だけ棒の位置も動いているため、すぐには見つかりません。雪で埋もれている可能性もあります。何分か付近を歩きまわって、腰の高さくらいの赤白棒を見つけました。
三脚を使い、GNSS受信機を赤白棒の真上にくるように設置します。GNSS(Global Navigation Satellite System)は人工衛星を利用して正確な位置を測定するシステムの総称です(GPSもこれに含まれます)。受信機にパソコンやバッテリーを繋ぎ、動作をチェックした後、飛ばされないようにパソコン類を雪の中に埋めてセット完了。24時間後に撤収します。昨年測定した棒の位置と今年の棒の位置を比較すれば、氷床が1年でどれくらい動いたかが分かるというわけです。
P50でのGNSS設置が終わった後は、S16、S17の両地点でも同じ作業を繰り返しました。そのうちにだんだんと吹雪が強くなってきて、おそらく風速は20メートル以上。冷たい雪粒が吹き付ける中、予定していた3地点でのGNSSの設置をなんとか完了しました。
この日は雪上車に泊まり、翌日、GNSS装置を回収。来年の観測のために赤白棒を立てました。
この観測は1996年から20年以上にわたって続けられており、得られたデータは氷床の長期的な変動を知るための基礎的な知見となります。兒玉隊員によると、この辺りの氷床は1年に平均約5メートル動いているそう。地道な観測を長年積み重ねることではじめて、南極氷床の長期的な変動を捉えることができるのです。
(JARE61 寺村たから)