南極観測隊では、毎年リュツォ・ホルム湾の St.BP という観測点(南緯66度50分、東経37度50分)に海底圧力計(OBP)を設置し、その地点の潮汐や地球環境変動などによる海底圧力の変化を調べています。
海底圧力計は直径約50cmの球体で、重さは約30kg。これを水深約4,000mの海底に設置し、約1年間その場でデータを収集した後に回収する……と、初めて聞くとなんだか大変な観測です。深い海の底に設置される都合上、データを遠隔で伝送することは難しく、1年分の貴重なデータを手にするには装置を物理的に回収して内部から取り出す必要があります。
海底圧力計の設置と、前次隊で設置した機器の回収を毎年セットで行うことで、年々のデータを切れ目なく継続して得ることができます。昨年、昭和基地へ入る直前にも海底圧力計の設置を行いました。
撮影:JARE67 池田未歩(2025年12月20日)
そして2026年2月1日、一昨年66次隊が設置した海底圧力計の回収ミッションが行われました。電波の届かないほど深い海底に設置されている海底圧力計への指示は、音波を用いて行います。音響信号を送受信する「トランスデューサー」と呼ばれる装置を海中に投入し、まずは信号を送って反応があるかどうか、海底圧力計が正常に動作しているかを確認します。
撮影:JARE67 池田未歩(2026年2月1日)
海の底の海底圧力計が「生きてるよ!」と知らせてくれる瞬間です。
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
応答を確認した後は、いよいよ回収のための切り離し指示に移ります。66次隊で設置した海底圧力計を回収したいところで、67次隊が設置したばかりの機器が浮上してきては大変なので、海底圧力計ごとに固有の切り離し信号が割り当てられています。決まった音響信号を送ると電流が流れ、錘(おもり)部分が切り離され、海底圧力計自身の浮力によって約90分かけてゆっくりと海面へ浮上してくる仕組みです。
13時半頃、岡田隊員が切り離し信号を送信しました。返ってくる音が変わり、海底圧力計が指示を受け付けたことが分かります。約1分おきに呼び出して現在位置を確認すると2,309m…2,238m…※と、徐々に近づいてくる様子がわかり、現場には緊張感が漂っていました。
※直線距離の値のため、水深とは異なります。
切り離し信号を送る瞬間の様子
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
海底圧力計が頑張るのはここまで。後は海面に浮上してきた時に届く信号を合図に、双眼鏡を使って探します。揺れる海で小さなブイを探す作業に苦戦すると思っていたのですが、なんとほんの5分ほどでしらせ乗員の方が見つけてくれました。
「あった!」と声が上がるまであっという間の出来事でした。
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
海の水位は干潮・満潮といった言葉があるように、月や太陽の引力によって周期的に変化します。一方でそれとは別に、氷河の融解や、海水温上昇に伴う熱膨張など、地球環境の変化を反映することによっても変動します。地球環境変動を理解するには、単に海水位がどの程度変化しているかだけでなく、その変化がどのような要因によるものなのかを区別して捉えることが重要です。海底圧力計による観測は、熱膨張などの密度変化による水位変化には影響されず、氷河の融解による水位変化を海底にかかる水の重さの変化として捉えることができます。
St.BPは、水深が十分に深く1年を通した水温変化が小さいため、安定した条件で高精度な海底圧力のデータを得ることができる観測点です。この特性を生かし、海底圧力の観測は46次隊の頃から継続して実施されてきました。
今回回収した海底圧力計は2024年12月21日に投入されて以来、約1年1か月ぶりの再会となります。データの取り出しと解析はこれからですが、まずはお疲れ様!そしておかえりなさい!
撮影:JARE67 池田未歩 (2026年2月1日)
(JARE67 池田未歩)


