南極授業(北海道伊達開来高等学校)『多様性とは・・・』

1月27日(火)、日本時間の14時より、昭和基地と私の勤務校である北海道伊達開来高等学校を繋いで南極授業を実施しました。授業のテーマは『多様性』です。

これを主題に選んだ理由をうまく説明するのは難しいのですが、何か特別大きな出来事があったとかそういう類のものではありません。生物多様性って教科書にも載っている言葉だけど、その意義はまだ明確にはつかまえ切れておらず、一体何なのかなと何処かスッキリとしない感じがずっと残っていました。あるいは時代が成熟していくのに従いマニュアルやルールが増え、画一的な世界や考え方がますます学校や社会に広がっていくことに対する違和感なども根底にあったような気がします。加えて学校や社会でも人々に優劣をつけて評価しますが、あくまで評価はその世界を形作る“箱”によって決まっており、もし箱を取り払って多様な視点で一人ひとりを眺めたら、優劣なんてほとんどないんじゃないかなという思いもいつの頃からか自分の頭の中に広がっていました。

そして現代の最大級の課題である地球温暖化をはじめとする環境問題も、単一的なものの考え方や、最短距離で最適解に突き進もうとする姿勢に根源的な問題があって、この先うまく地球と共存していくためには、多様な視点と思考を持って、それぞれのバランスを整えながら進むことが不可欠に思われたことがテーマ設定に大きく影響したような気がします。

この南極授業では「生物多様性」「視点の多様性」「表現の多様性」「人の多様性」と4つの多様性について取り上げていき、多様性とは何なのかということをみんなと一緒に考えるべく授業を構成しました。授業を作るにあたって大事にしたことは以下の4点になります。
・南極の生態系の特徴について伝えること
・Liveでしかできないことを追求すること
・生徒自身を授業の主体者側に引き入れること
・生徒にとって展開性に優れていること

具体的に授業は以下の流れで進めていきました。

導入① 〜南極の環境〜
授業は19広場よりスタートしました。昭和基地の気温や伏角についてクイズ形式で行い、生徒に南極の世界に足を踏み入れてもらいました。

なお、すべての司会進行は生徒自身に委ね、私と“会話する”ようにプログラムを進めていく方式をとりました。

19広場で伏角測定
撮影:JARE67 西村 英樹 (2026年1月27日)

導入② 〜南極の太陽高度と太陽光パネル設置角度の検討〜
昭和基地では自然エネルギーも活用しようと、さまざまなところに太陽光パネルが設置されていました。6月頃に本校の授業で、太陽高度とパネルの最適設置角度を実験から推定し、それを昭和基地に応用した場合、設置角度をどうするべきかをレポートにまとめさせていました。その結果を代表生徒に発表してもらい、現地で実際にどうなっているかを答え合わせをするようにして伝えました。場所は自然エネルギー棟前で行いました。ここでも、ただパネルの角度がどうなっているのかを私が伝えるのではなく、生徒自身に緊張感のある中で発表してもらうことによって、生徒自身の成長を促すとともに、授業そのものに彩りをもたせることを意図していました。

本論① 〜ペンギンたちの世界〜
続いて、待ってましたとばかりに南極のシンボルアニマルであり、この授業の物語の主役であるペンギンに映像で登場してもらいました。またペンギンの研究者の方にも登場していただき、どのような研究調査をなされているのかも聞きました。なお、このような書き方では導入と本論のつながりが断ち切れてしまっていますが、実際の授業では、司会の生徒とうまく会話を進めることによって、滑らかに物語から物語へと場面が移行していくことを大切にしました。

本論② 〜陸上生態系〜
では、南極の陸にはかわいいペンギン以外にどんな生き物が見られるのかという流れから、スカルブスネスやラングホブデといった露岩域での調査の話へと移ります。なお、場所は露岩域に似た雰囲気を持ち、眺めの良い天測点で中継しました。

またここでも生徒発表を組み入れました。科学部ではこれまでに地元の有珠山などで生態学的調査を行ってきたので、まずは地元の生き物たちの世界を知ってもらい、それを受けて南極の陸の世界について見ていこうという意図のもと発表をしてもらいました。

天測点にて南極の陸上生態系について解説中
撮影:JARE67 西村 英樹 (2026年1月27日)

本論③ 〜海の生態系〜
こうしてあの可愛いペンギンの命は、陸の生態系で支えていくことは不可能そうだということで、別の世界、すなわち海の世界へと話を移していきます。ここでの中継は、海の世界に話がつながるよう海氷前で行いました。アイスアルジー、ベントス、魚類、そしてオキアミと豊かな南極の海の生態系について物語を編んでいき、それを生徒に学んでもらいました。またここでも地元の海というレイヤーを差し挟むことで、重層的な授業となるように工夫しました。

こうしてあの可愛いペンギンの命は多様な海の生態系によって支えられていると物語に一区切りを打ちます。

本論④ 〜視点の多様性〜
しかし、とここで授業に楔を打ち込んでいきます。温暖化や南極氷床の減少についての話を移し、こうした環境問題は多様な視点が欠けていたことが大きな要因の1つなのではないか、そうした意味で、ペンギンにばかり注目していてよいのだとうかと生徒に疑問を投げかけます。そこで南大洋で圧倒的なバイオマスをほこるプランクトンに関連した物質循環の話やプランクトン成長の制限要因である鉄Feの動態についての話を研究者の方に直接話してもらうようにしました。なお場所は、温暖化の主たる要因となっているCO2をモニタリングしている観測棟前で行いました。

本論⑤ 〜表現の多様性〜
また、今回南極に来るにあたって、日本にいる間に、2人の生徒に協力して多様性を表現した1枚の旗を作成してもらいました。これは言語コミュニケーションが重視されがちな世界にあって、さまざまな表現の仕方があっていいよね。というか、絵とか音楽とかダンスとかでしか表現できない伝え方もあるのではないかということで、この旗に込めた想いを作成者の2人に発表してもらいました。

生徒が作成したDiversity Flagとシェッゲ
撮影:JARE67 宮川 萌(2026年1月1日)

本論⑥ 〜人の多様性〜
そして、最後は人の多様性です。この授業に彩りを加え、かつ発表者自身に大きな成長を遂げてもらいたいという願いのもと、司会をはじめ多くの生徒に南極授業の実施者として協力してもらいました。そして最後の協力者として、この半年、赤道儀を作って白夜を撮影しようというプロジェクトのもと、一生懸命取り組んできた生徒に赤道儀製作について発表してもらいました。なお場所は多目的アンテナレドーム前に実際の赤道儀を設置し、その前で行いました。

天測点に設置した赤道儀
撮影:JARE67 宮川 萌(2026年1月9日)

エンディング 〜赤道儀の成果、および多様性とは〜
自作した赤道儀で切り取った白夜の映像を使って、エンディングへと持っていきました。そして最後に私自身が感じている多様性の意義について語り、授業の結びとしました。なおラストはPANSYエリアで行いました。

手伝ってくれたみんなと一緒に南極授業のお別れ
撮影:JARE67 西村 英樹 (2026年1月27日)

以上が授業の流れです。この授業の特徴は、まずオール屋外中継という形式を採用したこと。これはLiveでしかできないこと、南極らしさを生徒にできるだけ伝えるということを追求した結果です。またたくさんの生徒に授業の主体者として活躍してもらいました。月並ですが、子供が最も成長するのは何かを誰かから伝えられたときではなく、自らが懸命に取り組んで行ったときです。またその姿が授業を重層的かつ彩りあるものにしました。加えて、見ている生徒にとって、普段見知った先生が南極という異世界にいる、そこからなにかを語っている。あるいは自分の友人が南極授業で活躍しているという文脈が、専門家の方の話を聞くことよりも大きな展開性を持つのではないかと考えこのような形で授業を実施しました。

いずれにしましても、多くの、本当に多くの人の支えがあって成立した南極授業です。広報スタッフ、研究者・観測隊の皆さま、日本で運営を支えてくれた先生や生徒、すべての人に感謝します。ありがとうございました。

南極授業終了後、撮影スタッフとともに
撮影:JARE66 米村 幸司 (2026年1月27日)

(JARE67 宮川萌)