2月12日未明、昭和基地南東の空に、極中間圏雲 (PMC:Polar Mesospheric Cloud)らしき雲が現れました。

撮影:JARE66 名本彩乃(2025年2月12日)
一般的な雲は、対流圏という地上から高度約10kmまでの間で発生しますが、極中間圏雲は高度約85kmの高さで発生し、地球上で最も高い高度に発生する雲といわれています。今回現れていた雲も、対流圏にある雲と比べると遥かに高い高度に発生しているようで、地平線の下から昇りつつある太陽からの光を受けて青白く輝いて見えました。

太陽光の当たる極中間圏雲らしき雲とは対称的でした。
撮影:JARE66 野島孝之(2025年2月12日)
極中間圏雲は夜光雲とも呼ばれます。昭和基地で初めて夜光雲が観測されたのは、50次隊の越冬開始直後である2009年2月11日夜遅くから12日未明にかけてと、奇しくもほぼ同じ日付・時間帯だったようです。
今回この雲を発見したのは気象隊員でした。気象隊員は、気温や湿度、気圧といった気象要素を測器によって観測するほか、雲や大気現象等を目視で観測・記録しています。昭和基地で現れる現象としては、「雪」や「ふぶき」といった降水現象、「もや」や「霧」といった視程障害現象が一般的ですが、それ以外の珍しい現象についても観測対象としており、極中間圏雲についても記録しました。昭和基地における気象観測の記録としては、実に16年ぶりの観測事例となります。
一般的に、極中間圏雲は産業革命以前に発生した記録が残っておらず、人間活動の変化を反映して発生するようになったと考えられています。このことから「気候変動のカナリア」とも呼ばれており、気候の変化を知るための手がかりの1つとして、その観測記録を残すことは大切です。
また、このほかの珍しい現象として、昭和基地付近には極域成層圏雲(PSCs:Polar Stratospheric Clouds)が現れることがあり、その高度や方向といった特記事項も記録しています。極域成層圏雲は高度20~30kmに現れますが、この雲はオゾン層の破壊に寄与していることが分かっており、このような現象を記録として残すことは非常に重要です。再現不可能な自然現象を対象とする気象観測は、やり直しや繰り返しができません。気象隊員はそのことを心がけながら、日々の気象観測に取り組んでいます。
(JARE66 野島孝之)