トッテン氷河沖での鉄の観測

第66・67次南極地域観測隊におけるトッテン氷河沖での集中観測では、観測船「しらせ」にて初となる「クリーン採水」という観測を行い、鉄と生物の関わりを探ります。鉄は私たちの体になくてはならないのと同じように、海に暮らす生物にとっても不可欠な栄養分です。南極周辺の海は、他の栄養成分に対して鉄が不足していますが、地球温暖化に伴い南極周辺の海氷や棚氷の融解によって栄養分となる鉄が放出され、生物の活動を変化させているかもしれません。

この実態を明らかにするため、2022年から「鉄観測ワーキンググループ」を立ち上げ、海水以外から由来する鉄の汚染(混入)を避けて「クリーン」に観測するための方法を探ってきました。というのも、海の中の鉄の濃度は「25mプールに耳かき1杯の鉄粉を入れた量」程度しか存在せず、船体や鋼線ケーブル、そして自分自身が触れることでも簡単に汚染してしまうためです。

また、観測甲板での汚染をなくすため、しらせ乗員のみなさんにも「ここには触って良い、だめ」など細かなお願いをしたところ、きっちり指示を守って作業を進めてくれています。おかげで大きな問題なく観測の成功に至っています。クリーン採水はトッテン氷河沖での観測が終わるまで続きます。

詳細な結果は日本に戻って分析しないと分かりませんが、ここでの成果はトッテン氷河沖で起きている現象の理解に大きくつながると期待しています。そして、しらせ乗員のみなさんの協力なしには、この観測は成り立たないため感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます。

直付け採水
鉄を含まない繊維ケーブルに採水器を直接取り付けて海中へ投入し採水します
撮影:JARE66 北本 憲央(2025年3月6日)
クリーンCTD採水システム
事前に採水器を塩酸で洗い、繊維ケーブルを使用して海中へ投入し採水します
撮影:JARE66 北本 憲央(2025年3月6日)
クリーン時系列採水器
任意の時間間隔でサンプリングを繰り返し、海水中に含まれる鉄濃度の時間変化をとらえることができます
撮影:JARE66 北本 憲央(2025年3月12日)
海氷ゴンドラ観測
ゴンドラで海氷に降り立ち、雪や海氷を採取します
撮影:JARE66 北本 憲央(2025年3月16日)
現場ろ過装置
目的の深度に装置を投入し、その場で海水から粒子を採取します
撮影:JARE66 北本 憲央(2025年3月6日)
コンテナラボ
外部からの汚染を防ぐクリーンルーム
撮影:JARE66 北本 憲央(2025年3月6日)

(JARE66 北本 憲央)