世界にはばたく日射放射観測

昭和基地の基本観測棟の屋上には、ドームのついた観測装置がずらりと並んでいます。これらの装置は、太陽から地球が受け取るエネルギーの「日射」と、雲や温室効果ガスなどから地球に向けて放出されるエネルギーの「赤外放射」を観測するためのものです。

一方、すぐ近くの海氷上には、似たような装置を上下逆さまにして取り付けています。こちらは、太陽から届いたあと雪面で反射されるエネルギーの「反射日射」と、地表面から上空へ放出される赤外放射エネルギーの「上向き赤外放射」を観測するものです。

基本観測棟屋上(左)と海氷上の日射放射観測装置(右)の写真
撮影:JARE65 佐藤祥平(2024年12月18日)

日射放射観測によって、地球や大気へのエネルギーの出入りを把握することができます。昭和基地で観測された日射放射観測データを見ると、入ってくるエネルギーより出ていくエネルギーが大きいのがわかります。昭和基地のある南極や反対側の北極が寒いのはそのためです。赤道付近は入ってくるエネルギーのほうが大きいため、赤道と極地とでのエネルギーの差が台風や前線といった大気の運動を引き起こす要因となります。

また、長期間の日射放射観測のデータを解析することにより、雲の有無や太陽の高度の変化によるものとは異なる、長期的なエネルギーの出入りの変化を確認することができます。こういった変動は温室効果ガスや大気中の微細な粒子(エーロゾル)の影響を受けるため、地球温暖化をはじめとする気候変動のメカニズムの解明や予測精度の向上に役立ちます。

世界規模で精度の良い観測を行うために、「基準地上放射観測網(BSRN)」という国際的な研究観測網が設立されています。参加する観測地点は、現在達成可能な最高水準の観測精度で観測するように求められます。昭和基地は、このBSRNの観測点の1つであり、長年にわたり毎日のメンテナンスを続け、国内での観測装置の改良を重ねながら、精密な日射放射観測を続けてきました。このようにして蓄積された精度の良いデータは世界的にも高い評価を受けており、極域を代表するデータとして世界中の研究機関や国際機関で利用されています。

出典:文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2020」
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも同じデータが示されており、
昭和基地のデータも使用されています。

このように、重要なデータを提供している昭和基地の日射放射観測には日々のメンテナンスが欠かせません。気象隊員は毎日、装置のレンズ部分を丁寧に清掃し、ゴミや汚れを取り除いています。太陽を追尾する装置の維持管理も重要です。太陽の沈まない白夜の間は、装置が一日中太陽を追尾するため、正しく動作しないと観測に影響が出ます。太陽が出なくなる極夜が近づくと太陽の高度が低くなるため、装置が正確に太陽を追尾できるように調整する必要があります。

また、ブリザードが来たときには強風によって破損したり、装置が雪や氷で覆われたりすることもあります。こういう時は速やかな修理や清掃が求められますが、強風下での作業は簡単ではありません。それでも、精密な観測を続けるためには欠かせない作業です。

太陽追尾装置の動作と、ブリザードのあと氷がついた観測装置の様子
撮影:JARE65 佐藤祥平(左:2024年12月18日、右:2024年7月8日)

メンテナンス作業の様子
左撮影:JARE65 佐藤祥平(2024年5月2日) 
右撮影:JARE65 奥谷椋一(2024年12月18日)

65次隊として日射放射観測業務に携わり、歴史ある観測に貢献できたことを誇りに思います。残りの期間のメンテナンス作業や次の隊への引継ぎ作業においても、気を引き締めて取り組んでいきたいと考えています。

(JARE65 佐藤 祥平)