昭和基地の基地主要部から約500m離れたところに、1,000本を超えるアンテナ群があります。これらはPANSYレーダー(Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)と呼ばれる大型大気レーダーのアンテナで、およそ甲子園球場と同じくらいの広さがあります。
南極は人間活動の影響が少ないため、地球気候変動のモニタリングに適しています。大型大気レーダーで取得した観測データは、大気波動や乱流構造の解明、オゾンなど大気微量成分の輸送過程、雲の生成消滅過程、大気のエネルギーバランスなど、さまざまな研究に応用できます。また、地球全体の気候・気象システムの解明にもつながり、ひいては、地球温暖化やオゾンホールなどの将来予測に使用される各種気候モデルの改善にも寄与すると期待されています。
PANSYレーダーは、上空に電波を発し、上空の大気により散乱されて戻ってきた微弱な電波を受信して、上空の風速や乱流強度を測定する他、流星が残す電離飛跡も捉えて風を測り、また、電離圏の中のプラズマの観測も行って、地表付近から高度500kmまでの観測を行います。この観測で周期数分から太陽周期11年に至る広い周期帯の南極大気現象を捉えることができます。
日本主導の国際共同研究プロジェクトICSOM (Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modeling)では、世界の大気レーダーグループに呼びかけて7年にわたり毎年国際協同観測を実施し、超高解像度の大気大循環モデルと組み合わせることで、北極成層圏の変動が南極に数日間で伝わる「南北両半球大気の結合」に関するこれまでの定説を覆すメカニズムを解明するなど、国際的に評価の高い多くの成果を挙げてきました。越冬隊には、このPANSYレーダーを用いた観測を担当する隊員が1名派遣されています。
越冬期間中は、ブリザードと呼ばれる吹雪が何度も昭和基地を襲います。ブリザードによる雪のつき方は積雪量や風の強さ、地形により様々です。アンテナのエレメントが埋まってしまったまま放置してしまうと、エレメントが雪の重さで曲がったり、最悪の場合、破損してしまいます。物資の少ない南極では、エレメント1つ1つが貴重品なため、毎回どこが埋もれてしまいそうか予測し、事前にエレメントを取り外す作業を行います。
初めてPANSYエリアに足を踏み入れた時、規則的に並ぶ1045本におよぶPANSYアンテナは壮観で、規模の大きさに圧倒されました。
アンテナ全てが雪に埋もれてしまうと観測に支障をきたしてしまいます。観測の実施はもちろんのこと、エレメント取り外しや除雪作業といった維持・管理も隊員の重要な任務のひとつです。
(JARE65 山岡麻奈美)