観測隊として活動していると、よく耳にする「VLBI観測」。VLBIとは、Very Long Baseline Interferometry(超長基線電波干渉法)の略だそうです。…聞きなれない単語の羅列に、頭に「?」が浮かんでしまいました。6月4日の20時30分(昭和時間)から翌5日の20時30分(昭和時間)にかけて、昭和基地でVLBI観測が行われたため、観測を担当する地圏モニタリング担当の岩波隊員と多目的アンテナ担当の清水隊員のもとを訪問し、取材してきました。
VLBI観測は測量技術のひとつで、数十億光年先にある天体が放つ電波を、地球上の複数地点のパラボラアンテナで同時に受信します。異なる地点のアンテナ間では電波を受信した時刻はわずかに異なり、この時刻の差を水素メーザー原子時計で測定することで、数千kmも離れたアンテナの距離をわずか数mmの誤差で測ることができます。地球上の緯度・経度を正確に測定するほか、地球の自転速度を測ったり、アンテナ同士の位置関係の変化からプレート運動を監視する等、地球規模で起こる様々な変動を捉え解明することに役立っています。
今回のVLBI観測では地球上の8か所の基地局で同時に観測が実施され、24時間で延べ238個の天体から発せられる電波を観測しました。
岩波隊員にVLBI観測を行う際の心構えを伺ったところ、「アンテナが正常に動作するかの動作確認や他部門への協力依頼など、事前準備が大事。アンテナを動かす際におおよそ20kwの電力を消費するため、基地内全体に節電を依頼することになる。また、観測は24時間続くため、忍耐力も必要」とのことでした。
観測中はアンテナがプログラム通りに稼働しているかを確認するため、担当隊員は24時間気を抜くことなく監視しています。観測を終え、清水隊員は「無事に終わって安心した。」と語っていました。
「うるう秒」挿入の決定や、プレート運動によりハワイが日本に毎年数㎝近づいているといった、一度は耳にしたことがある情報は、VLBI観測結果により得られたものです。
IVS(International VLBI Service for Geodesy and Astrometry:国際VLBI事業)主導のもと、昭和基地では1年に10回程度VLBI観測が実施されており、次回、8月28日~29日に実施が予定されています。
直径11mパラボラアンテナが動く様子。対象の天体が切り替わるごとに天体の方向に向け、
アンテナの向きを変えます。遠く離れた天体からの電波を捉えるアンテナを見ていると、
観測スケールの大きさにただただ圧倒されるばかりでした。
撮影:JARE65 山岡麻奈美(2024年6月5日)
(JARE65 山岡麻奈美)