深層アイスコア掘削の準備

ドームふじチームは、深層アイスコア掘削を引き続き進めています。先日終了した浅層アイスコア掘削で開けた穴(掘削孔)を拡張するリーミング、ドリルを支えるマストの組立、拡張した掘削孔にパイプを挿入するケーシング作業を完了しました。アイスコア貯蔵庫や解析室などの施設の工事も終了し、ドームふじ観測拠点IIにおける、JARE65夏期での作業は全て完了しました。

南極大陸上にある氷(氷床)は、重力によってゆっくりと変形します。そのため、深層アイスコア掘削によって氷床に縦孔を開けていくと、周囲の氷の力で次第に孔が閉じていきます。掘削孔が狭まると深層掘削ドリルが入らなくなったり、途中でつかえて回収できなくなったりするため、氷と同程度の密度である液体を満たして、掘削孔が閉じないようにしながら深層アイスコア掘削を行います。しかし、表面から深さ約100メートルまでは、雪が氷に変化する途中の段階にあるので、液体を掘削孔に入れると外側に染み出してしまいます。そのため、ケーシングパイプと呼ばれる筒を掘削孔に挿入する作業が必要となります。

 浅層アイスコア掘削でできた掘削孔の直径は13.5センチメートルですが、ケーシングパイプの直径は約20センチメートルであるため、掘削孔を拡張する必要があります。拡張作業(リーミング)には、リーマーと呼ばれる掘削機を使用します。アイスコアを掘る通常のドリルと異なり、掘削孔の壁を削り、削り屑(チップ)のみを回収することが目的です。直径13.5センチメートルから24.5センチメートルまで拡張しますが、一度では拡張できないため、第1リーマー(18.0センチメートル)、第2リーマー(21.5センチメートル)、第3リーマー(24.5センチメートル)による3段階の拡張を行いました。第1リーマーは67回の掘削で地上から110メートル深、第2リーマーは50回の掘削で108メートル深、第3リーマーは38回の掘削で107メートル深まで掘削孔を拡張しました。途中で休日を挟み、9日にわたる作業でした。

リーマーを用いた掘削孔の拡張作業(リーミング)。浅層アイスコア掘削システムに3種類の直径のリーマーを順に取り付けて作業を行いました。
撮影:JARE65 中澤文男(2023年12月26日)

次にケーシングパイプの挿入作業に移りますが、長さ5メートル、重さ約50キログラムのパイプを連結しながら挿入する作業には、深層アイスコア掘削でも使用するマストを用いました。13名の隊員が協力することで、マストの土台の設置から、長さ14メートルのマスト本体の組立まで、1日で終えることができました。

マストの組立作業。金属製の部材をボルトで繋げていきます。安全のため、10メートルピットにはフタをしています。
撮影:JARE65 中澤文男(2024年1月6日)

 組み立てたマストを使って、拡張した掘削孔にケーシングパイプを挿入しました。地上でパイプを2本連結し、10メートルの長さにしたものを1組ずつマストに寝かせ、10メートルピット内に降ろします。先に挿入したパイプと連結したのち、ゆっくり掘削孔の中に降ろしていきます。パイプを19本連結し、設計通りの107メートル(第3リーマーで拡張した深さ)まで挿入できました。

ケーシングパイプの挿入作業。パイプをマストに寝かせて10メートルピット内に降ろす作業と、10メートルピットの底での接続の様子。
 撮影:JARE65 中澤文男(2024年1月6日)

深層掘削ドリルの組立も完了し、深層アイスコア掘削の準備が整いました。
撮影:JARE65 中澤文男(2024年1月10日)


(JARE64 津滝俊)