1月10日から12日、リュツォ・ホルム湾沿岸の露岩域のひとつであるスカルブスネスのきざはし浜で実施された、測地チームの野外活動についてご紹介します。
測地チームは、鈴木隊員ひとりだけで構成されているチームであることから、人手の必要な野外活動の場合、他の観測隊員が同行して支援に入っています。この時は、同行取材を兼ねて夏隊広報と越冬隊広報の2名とペンギンチームの後藤隊員、そして教員派遣プログラムの同行者、南迫さんの計4名が支援要員として鈴木隊員のサポートに当たりました。
測地チームのきざはし浜での活動目的は、新しい基準点の設置です。基準点とは、地球上の位置や海面からの高さが正確に測定された地点のことで、地図の作成や測量の基準となる地点です。南極にはそもそも土地を利用する人が住んでいないので、わざわざ地図を整備する必要性は低いのではないかと思われるかもしれませんが、測地や地形の情報は、この地域で観測隊員が安全に活動し、観測したデータを活用するための基本資料として不可欠です。
基準点を新設する際には、GNSS測量の他にも付近に標高値が取付けられている既設の基準点がある場合、新設基準点まで水準測量を実施します。今回は、54次隊で潮位観測が実施され、標高値の取付いた既設の基準点が付近にあったため、水準測量を実施しました。支援要員の役割は、数百メートル離れた既設と新設の基準点の間を標尺と呼ばれる2本のものさしを地面に垂直に立てて数十メートル毎の間隔で移動していくことでした。そこで鈴木隊員が、レベルと呼ばれる機械を2本の標尺の間に設置して、その標高差を読み取ります。その後、片方の標尺を数十メートル移動させて再び標高差を読み取る。この動作を繰り返して最終的に新設基準点の標高値が求められます。
この標尺を立てては移動を繰り返す作業は、とても単純ですがなかなか難しいことです。標尺を立てる足元が硬い岩場なら良いのですが、柔らかい砂地だと立てた直後からじわじわと沈んで、標尺を垂直に保てなくなり誤差が生じてしまうのです。寒風に耐えながら動かずじっと、まっすぐに標尺を立てて移動を繰り返す、ということを2時間程行って水準測量は終了しました。
翌日11日におこなった、鳥の巣湾でのペンギンチームの同行取材についてはこちらで紹介しておりますので是非合わせてご覧ください。
明けて12日、この日は対空標識という目印を、基準点鋲の周囲の露岩に塗装する作業を支援しました。航空機や人工衛星から鉛直に撮影した地上の静止画像(空中写真)を基にして地図を作成する際に、小さな基準点の座標を判別できるようにするための大きな目印です。
スカルブスネスの同行取材では、今の観測隊の活躍を広報するだけではなく、将来の観測隊の活動を支えることとなる新しい基準点の設置を支援することが出来ました。鈴木隊員は「南極での基準点設置は、限られた隊員しかできなく、地味ですが、責任のある貴重な作業です」と測地観測を担うことの重さや大切さ、それを継続していくことの誇りを語ってくれました。ほんの僅かな作業支援ではあったものの、この基準点が役割を果たし続ける限りは、スカルブスネスを訪れ活動したことの証にもなるんだなと気づき、思わず小さな鋲が愛おしくなってしまった現金な広報隊員でした。
(JARE65 丹保俊哉)