テーレン氷河における氷底湖探査

1月中旬より、第65次南極地域観測隊では、昭和基地から南方約70 kmに位置するテーレン氷河において観測活動を行っています(図1)。

(図1)南極氷床から海へ流れ出すテーレン氷河。
撮影:JARE65 近藤研

北海道大学の研究者を中心とする氷河チームは、事前の衛星データ解析によって、氷床底面に形成する湖である「氷底湖」の存在が疑われる場所をテーレン氷河流域に発見しました。氷底湖は、氷床底面の活発な滑りを促進して氷河の速い流動を作り出したり、その突発的な決壊によって氷河を短期的に急加速させるなど、南極氷床の変動に重要な役割を果たしています。しかしながら、厚い氷の下に存在する湖の実態を観測することは難しく、その成因や変動機構は未だ謎に包まれています。

氷河チームはヘリコプターを用いて現地に赴き、氷レーダーや地震波を用いた探査によって、氷床底面の湖の存在やその水深、氷河流動への影響を調査しています(図2)。ヘリコプターからテーレン氷河末端部を望むと、荒々しいクレバス帯を有するその迫力に圧倒させられます。このような美しい氷河の変動に、氷底湖がどのような影響を与えているのか、探究心を揺さぶられる光景です。

(図2)氷レーダーを用いた探査の様子。電磁波を使って氷の厚さを調べます。
撮影:JARE65 近藤研

本観測のメインイベントは、ハンマーを金属プレートに叩きつけて作った地震波を地震計で記録する、「反射法地震探査」と呼ばれる観測です(図3)。氷床底面や氷底湖を伝搬して表面に帰ってきた地震波を測定することで、底面における水の存在やその水深を知ることができます。隊員たちの間では別名「ハンマー振り振り大会」の愛称で親しまれています。

謎に包まれた氷底湖の実態を明らかにすべく、8 kgのスレッジハンマーを振りかぶって1日に160回金属プレートに打ち付けるのが主な作業内容です。氷底湖の実態が一つ明らかになるごとに、私の肩周りもまた一つ大きくなっていきます。大変な観測ではありますが、雄大な自然の中で極地の未知と格闘するやり甲斐を感じる仕事です。

(図3)ハンマーで金属プレートを強打し、発生した震動で反射法地震探査を行います
撮影:JARE65 山岸慎英(2024年1月10日)

12月下旬に始まった氷河観測も徐々に終わりが近づいてきました。後悔を残さず帰りの「しらせ」に乗船できるよう、残りの日々も全力で南極の氷と向き合っていきたいと思います。

(JARE65 近藤研)