12月23日朝、65次南極地域観測隊本隊が昭和基地へと移動を完了させて四日目を迎えました。本日は休日日課※1となり、久々にのんびり過ごせているところです。
外は横殴りの強風が昭和基地を吹き抜けていて、広報隊員が滞在している第二夏期隊員宿舎(通称、二夏)の窓からヘリポートの吹き流しの竿が根元でへし折れ、狂ったように竿ごと真横にバタバタと暴れているのが見えています。ブリザード(通称、ブリ)の襲来です。64次越冬隊樋口隊長から昨日、外出注意令を発令することが予告され、全ての屋外業務が中止となることが見込まれていたため、合わせて今日を休日とすることも決められました。そんな訳で、隊長陣が今後のスケジュールの変更に頭を悩ませているところ申し訳ないのですが、広報隊員としては昭和基地に入ってから昨日までの動きをブログにしたためる良い機会を得ることが出来ました(数日分の事柄をまとめたため、文字と写真多めとなりすみません)。
昭和基地に入って12月22日朝までは風の穏やかな好天が続いていましたが、ブリザードの襲来予報が出ていたこともあって観測系・設営系を問わず各チームが基地施設屋内、或いは屋外での活動に向けて慌ただしく準備を進めたり始動したりしていました。
橋田観測隊長は南極観測船「しらせ」船上からヘリコプターの運用調整を陣頭指揮し、状況の変化に応じて頻繁に予定変更を迫られているにも関わらず、冷静沈着に捌いている様子が無線のスピーカーから聞こえてきます。ヘリポートでは輸送ヘリコプターが、基地着岸に向けて鋭意砕氷航行中の「しらせ」との間をひっきりなしに往復して、物資の空輸に大忙しです。「しらせ」から届いた物資は、倉庫などに一旦運び込まれて分類集積、それを基地の車両を使って各々のチームが持ち場へと運び出したり、或いは南極大陸沿岸に点在する観測拠点や調査地へと隊員とともに再び空へ送り出されたりしています。そうした物資や隊員の出入りを越冬庶務の山岡隊員が窓口役となって確認作業に奔走しています。国内と違って車両の数が限られている基地内での輸送は、現場監督役の槇田隊員が65次隊の車両の使用希望を取りまとめて輸送の円滑化に努めています。建設資材などの重量物や精密機器は、福本隊員ら機械担当メンバーがユニック車やクローラーダンプなどを使って輸送するのですが、基地内の道は山地の林道のように固い土がむき出し、整地も最低限で起伏が強いため、4輪車両はタイヤが空転しやすく苦労している様子が伺えました。
一方で初めて昭和基地に降り立った広報隊員は、まだ基地の施設配置など地理の把握に努めるべく歩き回っていたところでした。各チームの動きは、全体ミーティングの時間でアナウンスされる作業予定や無線機から聞こえる会話で把握するのが精一杯の状況で、動き出している周りの状況をみてやや焦りを覚えています。
新夏期隊員宿舎(通称、新夏)の建設作業も槇田隊員の監督のもと、早速始まっています。写真中央に見えるコンクリート基礎部分は64次観測隊によって昨シーズン中に打設されていて、65次隊はここに1階部分までを建て終える計画です(くわしくは新夏期隊員宿舎の仮組作業を参照ください)
昭和基地に降り立った第一印象は「未開惑星に進出を果たしたばかりの探査基地」でした。各種の建築物や構造物の外観を国内で目にすることはまずありませんが、何となく富士山測候所のような雰囲気を持っています。共通するのは極限の環境で迅速に建築することが求められることでしょうか。高断熱の外壁パネルを連結するプレハブ工法が採用されると似たような構造に落ち着くのかもしれません。ところが広報隊員を含む男性隊員38名に割り当てられた二夏の中に入ってみると、なんとなく見覚えのある佇まいで、それはすぐとあるイメージに結び付きました。山小屋の内装です。山小屋と一言でいっても色々な建て方がされていますが風が強く、また建材を運ぶのに苦労するような尾根の上に建てられるような小さな山小屋です。ここにはトイレや風呂場、洗濯場、炊事場などの上下水道の機能がありません。それは基本的に約250m離れた第一夏期隊員宿舎(通称、一夏)まで徒歩で通って済ますことが求められています。寝室は狭い2段ベッドと持ち込んだ荷物を置く他は出入りする程度の床しかありません。このように制限された生活を強いられるとはいえ、猫っぽい性格が幸いしているのか今のところ住み心地は悪くなく、「しらせ」での船酔いを思い出すと天地の差があります(「しらせ」乗員の皆さん、気を悪くしないでください)。
ブリザードの勢いはますます強まり昼食後まもなくの13時15分、外出注意令は外出禁止令へと移行し、二夏は18名の隊員・同行者を閉じ込めた缶詰となりました。追い打ちをかけるようにボイラーが強風のため点かなくなり、機械担当の早川隊員が何度となく再始動を試みていますが、警告ブザーが鳴るばかりで処置なしの状態です(後に復旧しました)。室温は徐々に下がっていますが、隊員はみんな夏の昭和ではなかなか体験できない外出禁止令に、上着を着こみながら顔をワクワクさせています。その輪に入りながらも、男子校の雰囲気ってきっとこんな感じなんだろうなぁと、ちょっと冷静に俯瞰してしまった広報隊員です。そんな中、富山に残してきた嫁から「ひみ寒ブリ宣言※2がでたよ」とメールが入ってきました。嫁と鰤、ナイスタイミング。
(JARE65 丹保俊哉)
※1 休日日課...南極地域観測隊では休みの日のことを休日日課(きゅうじつにっか)と言います。
※2 ひみ寒ブリ宣言...富山湾で獲れるブランドブリ「ひみ寒ブリ」のシーズン到来を告げるもの。富山県の冬の風物詩。