12月11日午前10時現在(GMT+5:00)、南極観測船「しらせ」は南緯61度34分、東経65度7分付近を時速約9ノット(約17km/h)で昭和基地のあるリュツォホルム湾に向けて航行中です。
昨日から風と波浪が強くなりはじめ、夕食後くらいから無事、波浪フェス開催となり本日クライマックスを迎えております。と同時に復調気味だった広報隊員の船酔いにもボディブローのように効き始めております。緩慢なジェットコースターにずっと乗せられているような気分で胸の内に湧き上がるモヤモヤとムカムカを押し殺し、海の様子を観察するため「しらせ」のブリッジに上ってきました。
ほぼ正面から「しらせ」に向かってくる大きなうねりを乗り越えて波間の底へ舳先が突っ込むと、真っ白な波飛沫が船首の先で一斉に立ち上がり、数瞬の間、厚いレースカーテンのようなベールを作っては舞散り、ブリッジの窓に注ぎかかってきます。その様子はまるで「しらせ」と南極海が激しく競い合って作り上げた一種の芸術作品のようです。時々、舳先の船底が海面を叩き付けるのかドシーンぐらぐらぐら、と震度3~4くらいあろうかと思える程度に「しらせ」が船体を身震いさせ、その最中、海鳥たちがなんの苦も無く遊ぶように舳先の波間を縫って飛ぶ様子に舌を巻きます。遠くではうねりの波頭が砕けて、巻波を作る様子も見えます。葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」とまでは流石にいきませんが、外洋で本当に巻波が生じるなんて思いもしませんでした。そして更に離れた海面には大きな氷山が寒々しく漂って見えています。
なんという世界なんだろう。一瞬、船酔いも忘れて呆けたように口を開いたままにして、窓の外で繰り広げられるドラマチックな世界に目が釘付けになってしまいます。16対9の大画面と5.1chの音響機材でも決して感じえない世界が目前に広がって電撃のように五感を刺激します。広報隊員の拙い文才では到底伝えきれないのですが、自らの役割を今果たさないでどうするという思いに突き動かされて、後ろ髪を引かれながらもブリッジを離れました。船内の階段と通路を千鳥足になりながら手すりを伝い歩いて自室へと戻り、この短報を書くためにノートパソコンを今朝初めて開きました。やはり今日はご飯が喉を通らなさそうです。
(JARE65 丹保俊哉)