「しらせ」南極海に到達!&氷山を初視認!!

12月3日13時頃、南極観測船「しらせ」は南緯50度に到達しました。南緯40度を通過したときと同様に、8の字航行による磁力計のキャリブレーションが再びおこなわれました。昭和基地に接岸するまであと2回のキャリブレーションが予定されています。船の動揺は前日の晩から強くなりはじめていますが、まだクライマックスには至っていないようです。朝の気温は高緯度の割にはまだ約9℃と暖かく感じ、季節が夏に向かう南半球にいることを実感しています。この日、船首にうねりが衝突したのか、大きな音とともにぶるぶると船体が振動するのを2度ほど感じました。それは自然の猛威に抗って南進する「しらせ」の雄叫びのようにも聞こえました。

この日の夜はオーロラも観察することが出来ましたが、船の動揺ではっきりと画像に残すことが出来ませんでした。微かながらも緑色のベールがカーテンのように天から垂れ下がっているのを初めて目にし、その感動に浸りたいにもかかわらず寒風が容赦なく体の熱を奪うため、這う這うの体で甲板から退散するしかありませんでした。

12月5日6時27分、「しらせ」はついに南緯55度に達し、インド洋から南極海(南大洋)に入りました。東経109度54分40秒、このとき気温は約3度でした。昨日までの船の動揺は弱まりつつあり、どうやら低気圧の影響圏から抜け出せたようで、波浪フェスを期待していながらも船酔い気味でこのところ食事が取れていない広報隊員としてはホッとした次第です。今までのところ、波浪による「しらせ」の傾斜は最大15度までに収まっており、航路選択に誤りはなかったようです。

広報隊員が目撃した中では最も大きな波しぶきがこれでした。撮れ高全然足りません!
撮影:JARE65 南迫勝彦(2023年12月4日)

同日の17時過ぎ、夕食の配膳が進んでいる最中に、ブリッジよりレーダー上で16マイル(約30km)先に氷山らしき存在を確認したとの放送が入りました。「南極海に入ったばかりなのにもう?」と思いながらも慌てて撮影機材を準備してブリッジに駆けつけるも、水平線の辺りは靄がかかって見通せません。そもそもブリッジよりも高い位置にあるレーダーで見つけたばかりなので、それよりも低い位置のブリッジではまだ氷山は地球の丸みの下です。そわそわして待つこと数十分、靄の中からゆっくりと勿体付けて現れました。棚氷の状態をまだ残した卓状氷山です。

分かりますか?靄の中から現れた氷山が。豆腐ではありませんからね。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月5日)

手すきの「しらせ」乗員や観測隊員らがブリッジへと集まりました。その大きさと神秘さに思わず息を呑んだり、口が開いたりしてしまいます。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月5日)


初めて実際に目で見る氷山の姿に距離感が分からなくなってしまいます。経験からスケールを推定することが出来ないからです。分かるのはとても大きそうだということだけ。白い巨体がぽつんと海に漂い、そこには羽を休める鳥類の影もなくとても寂し気に見えます。波浪を乗り越えた先に現れた氷山の静寂な佇まいは、ここが現世ではなく海で命を落とした船乗りが行く世界へと入り込んでしまったかのような雰囲気さえ醸しています。思わずあの氷山はいったいどこまで漂うのだろうか、そして誰にも知られることなくひっそり溶けて消えてしまうのだろうか、とすぐになんでも擬人化と感情移入してしまう広報隊員の悪い癖が出てしまいました。オーロラの出現後に氷山の初視認と続き、極地に近づきつつあることをジワリと実感させられています。

氷山は氷床だった頃の平滑な上端面を上にして、その大半を海の中に潜めています。
近づくのはとても危険です。撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月5日)

「しらせ」の船内で南極行動中に発行されている南極新聞では、氷山初視認の時刻当てクイズが恒例になっているようで、観測隊員や同行者の多くもクイズに参加しました。その結果、今年は観測隊からなんと2位に直井隊員(電離層担当)が、そして更に3位に村島隊員(機械担当)が入るという、冴えわたった直感を見せてくれて観測隊が大いに沸きました。

(JARE65 丹保俊哉)

正解の時刻に最も近かった順に3人の方に南極新聞から景品が贈られ氷山をバックに
記念写真が撮影されました。おめでとうございます!
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月5日)

お馴染みの手乗り〇〇で氷山と記念撮影する観測隊同行者の川上さん。氷山丸かじりパターンもおすすめの撮影ポーズです。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月5日)
出会いから別れまでたった1時間程の遭遇ですが、このときのことをきっと一生忘れないと思います。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年12月5日)