12月1日は北海道の広い範囲で「低緯度オーロラ」が目撃されました。オーロラは、磁気緯度(※1)65度から70度の「オーロラ帯」と呼ばれる範囲で見られることが多い現象です。しかし、北海道ではオーロラ帯に位置していない磁気緯度で少なくとも38度あたりまでオーロラが目撃されていたようです。今回は規模の大きい太陽フレア(太陽表面の爆発現象)が地球の方向を向いて発生したため、北海道でも20年ぶりにオーロラを目撃することができました。
南極に向け航行中の「しらせ」船上でも、12月1~3日にオーロラを確認しました。
南極観測船「しらせ」は11月30日に停泊していた真夏のオーストラリアのフリーマントルを出港しました。航行中は電話やネット回線の電波が入らず、インターネットが使用できなくなるため、入手できる情報が限られてしまいます。しかし幸いにも、出港前に太陽フレアが発生したとの情報は得ておりました。もしかすると12月1日には太陽フレアが地球に到達し、オーロラを見ることができるのではないかと淡い期待を抱いていました。
出港翌日の12月1日夜、「しらせ」は東経114度、南緯40度(磁気緯度南緯52度)付近を南進していました。船内では感染症対策で、第65次南極地域観測隊と「しらせ」乗員は動線分離中であり、夜間屋外を見渡して観望できる場所は船尾に限られていました。また空は雲に覆われ、オーロラを見るには条件の悪い環境であったため、「オーロラを見るのは難しいだろう」と思いながらも船尾に向かいました。実際、オーロラを見ることはできませんでした。目視では確認できなかったものの、持っていたスマートフォンで試しに空を撮影してみると、赤紫色に染まる雲が写っており、大変驚きました。筆者(の内2人)はオーロラを見たことがなかったため、写真に写ったのがオーロラなのか半信半疑でした。
その後、北海道での低緯度オーロラ視認の情報等も届き始め、「しらせ」が航行していた南緯40度(磁気緯度52度)付近でも十分低緯度オーロラが見られたと考えるのが合理的であり、低緯度オーロラが見られたと判断されました。特に、たまたま南(極)側ではなく、低緯度(北)側方向で観測されたことから、「しらせ」位置より低緯度側までオーロラが拡大していたものと思われ、天候が思わしくない中、貴重な観測データが得られました。
さらに翌2日も期待しましたが、太陽フレアによって発生していた磁気嵐(※2)も終息方向だったためか、空が薄っすらと赤くなっていたと報告があったのみでした。現状、オーロラとは断定できていませんが、その可能性も含め確認しているところです。
12月3日夜「しらせ」は地理緯度で南緯51.5度まで南下し、磁気緯度は-65度に至り、オーロラ帯に入りました。昨日までの磁気嵐は終息したものの、コロナホール(※3)起源の高速太陽風により地磁気が乱れ、オーロラが発生する可能性がありました。荒天も心配されましたが、幸い夕方以降は晴れ間があったので、オーロラ初視認に一層の期待が膨らみます。3日前に夏のオーストラリアを出港したばかりですが、既に外気温は4℃、風速は10m/sもの風が吹く寒空の下、現地時間22時頃まで確認することができず、半ば諦めムードも流れてきた頃です。「もう少し粘ってダメなら引き上げよう」と思い、カメラのシャッターを切ると、そこには薄っすらと緑がかった帯状の光が写っています。目視してもはっきりと認識することはできませんが、もう一度シャッターを切ると、やはり緑がかった帯が写っておりました。また先ほどの写真よりも色濃く写っており、少しずつその形も時間とともに変化しています。明らかにオーロラであることがわかりました。
さらに、緑の帯状のカーテンの近くには緑色の帯より淡く紫色の発光領域も広がっていることも確認できました。初めて見るオーロラにその場にいた隊員同士で喜び合いました。その後、オーロラは徐々に色濃くはっきりと見えてくるようになり、目視でも淡い白い帯が現れているのを確認することができました。暫くして「オーロラが出た」と船内放送が入り、一気に隊員や「しらせ」乗員がそれぞれにカメラやスマートフォンを持って飛び出してきて、大喜び。俄かにオーロラ祭の様相となりました。
今後は当面オーロラ帯より緯度が高く、何より、太陽が沈まなくなる白夜になっていくため、往路ではオーロラを見ることができる機会が限られてきます。天候が悪ければ見られないこともあります。昭和基地で越冬しない夏隊隊員や「しらせ」乗員もこの機会にオーロラを鑑賞できたことは嬉しい出来事となったのではないかと思います。
(JARE65 屋良朝之、清水岬、行松彰)
※1...地球内部の磁石のN極、S極を地磁気の南極点、北極点と考えて、地球上に新しく地磁気に沿った経緯度線を引き直したもの。
※2...地磁気の乱れが数日程度続く現象で、大規模なものは太陽の爆発現象が原因。
※3...太陽の最も外側にあるガスの層の希薄な領域。高速の太陽風が吹き出し、磁気嵐が発生する原因となる。