白夜の時期に入り、南極の夏を迎えた昭和基地。次の隊の受入れ準備や除雪で慌ただしい時期となりました。観測部門では日夜、地球環境を対象に観測を行い、多様なデータの取得を続けています。いくつかある観測部門の中でも今回は、24時間365日隊員が交代しながら観測を続ける、気象部門の仕事を紹介します。
気象部門では、地上気象観測をはじめ、高層の気象観測、オゾン観測、日射量の観測などを実施しています。観測されたデータは一部を除いてすぐに各国の気象機関に送られ、日々の気象予報に利用されるとともに長年に渡って観測された貴重なデータとして蓄積され、地球環境の変動をとらえる科学的なデータとして活用されています。また、気象部門の隊員たちは、南極の各国の基地で観測された気象観測データ、数値予報や気象衛星の雲画像等により天気解析を行い、昭和基地周辺の天気の見通しを私たち観測隊に提供し、隊の活動を支えてくれています。
気象部門の夜勤は通常、午後8時頃から始まります。この日の夜勤担当者は西巻隊員。気象部門を含め、越冬隊の観測部門をとりまとめる観測主任です。午後11時ごろから、気象部門の夜勤業務の様子に密着しました。気象部門の隊員たちが担当する業務のほんの一部ではありますが、紹介していきます。
◆1時間ごとに空を見る
気象部門では、昼も夜も1時間ごとに基本観測棟の屋上に出て天気や雲、視程※1を観測しています。雪が降っていたり、視程が悪かったり、天気の変化が大きいときにはもっと短い時間間隔で観測に行くこともあるそうです。午後11時から午前1時までの1時間ごとに空と天気を観測している様子です。
≪午後11時≫
午後11時の天気は雪。雲の形は層積雲と少しの積雲、雲は全天を覆っていました。視程は基本観測棟屋上から、南極大陸の稜線(南極大陸と空の境目)までが見える程度なので10kmでした。
≪午前0時≫
午前0時の天気も雪。雲の形は層積雲、雲は引き続き全天を覆っていました。空全体にのっぺりとした白い雲が広がっていました。午後11時には見えていた南極大陸の稜線が見えづらく、視程は8kmでした。
≪午前1時≫
午前1時の天気も雪。雲の形は積雲と層積雲、雲は全天に少しすき間があり、視程は8kmでした。雲のすき間から青空が見えているところもあり、午前0時よりも少し空が明るくなったように感じました。よく見なければ気づかないほど細かな雪が降っていました。
◆屋上の観測機器のメンテナンス
基本観測棟屋上では、日射や赤外放射、上空のオゾンの量、大気混濁度(大気の濁り具合)などを測るたくさんの観測機器が稼働しています。これらの機器が問題なく動いているかどうかのチェックも大切な仕事です。午後11時すぎ、日射計の太陽光が当たるセンサー部分の窓を拭く作業にあたっていました。観測への影響をできるだけ少なくするため、太陽光の少ない時間帯を見計らって夜勤中に行うことが多いそうです。
◆3時間ごとの気象情報の通報
昭和基地で観測された地上気象観測の結果(風向・風速、気温、湿度、視程、気圧、雲、雪などの大気現象など)は、3時間ごとに1日8回、全球通信システム(GTS)と呼ばれる世界的な気象通信ネットワークに通報しています。
◆夜食
午前0時すぎ、夜食の時間となりました。この日の夜食はお味噌汁と調理隊員が作ってくれたおにぎり。おにぎりの具は、たらこと昆布でした。
◆午前3時の高層気象観測
昭和基地では、地上だけでなく上空の気象観測(高層気象観測)も行っています。ゴム気球にセンサーを付けた観測機器(ラジオゾンデ)を吊るして飛ばし、地上から高度約30kmまでの大気の様子(気圧、気温、湿度、風向・風速)を測っています。高層気象観測は世界同時に1日2回行われていて、昭和基地では午前3時と午後3時に行います。午前1時半になり、この日高層気象観測を担当する清水隊員が出勤してきました。準備作業として、ラジオゾンデの動作確認、ゴム気球にヘリウムガスを充てんして浮力を調整する作業などを行っていました。基本観測棟内にいる西巻隊員からデータの受信が良好であることが伝えられ、「時間です、いつでもどうぞ。」の掛け声で、清水隊員が放球デッキからゴム気球に吊るしたラジオゾンデを飛ばしました。その後は順調に上昇しているか、引き続きデータの受信が良好か、などを確認していました。
「日々の気象観測業務は目立たないけれども、長い年月、観測データを取り続けることで、地球環境の変動の兆候をとらえることにつながっているので、大切な活動なのです」といった西巻隊員の話が印象的でした。多くの隊員たちが寝静まった時間にもかかわらず、丁寧に正確に仕事に励む気象部門の隊員たちの姿がありました。
(JARE64 白野亜実)
※視程…どの程度先まで見えるか、まっすぐに見通した時の距離