「しらせ」船内生活が始まりました

第65次南極地域観測隊本隊がしらせと合流した翌日の11月26日、南極観測船「しらせ」はすぐさま出港できる訳ではありません。「しらせ」自身も25日にフリーマントルに寄港したばかりで、燃料や生鮮食品、飲料水などの物資の補給や観測隊の野外活動の足となるヘリコプターの搭載作業を数日掛けておこないます。

ではその間、観測隊はのんびりと静養できるのかというと、もちろんそんな訳はありません。生鮮品は観測隊の分も含み、ヘリコプターの受け入れについては「しらせ」乗員の支援を必要としつつも本来は観測隊が主体となるべき作業です。また出港を前にして、知るべき艦内生活のルールもあります。今回のブログでは、そうした幾つかの講習や実習、海洋観測の準備などの合間に行われた、嗜好品の配布作業について主に紹介します。

この作業は「しらせ」が横須賀を出港する前に一同からリストアップされた酒やたばこ、珈琲、ジュース類、菓子類などの嗜好品を一括注文し、予め艦内倉庫に積み込まれていたものを各隊員・同行者に分別配布するとともに、物資の山でデッドスペースになっていた業務スペースを本隊の合流に合わせて利用できるよう倉庫へ積み替えるためでもあります。とはいえ自分で購入した嗜好品が早速配られるのですから、観測隊一同のテンションはちょっと上がります。倉庫からバケツリレー方式で嗜好品の段ボールがどんどんと運び出されて、配布作業をおこなう観測隊公室の机の上にみるみる積み上げられる様が面白く、年甲斐もなくお菓子の山を目の前にした子供のようなワクワク感を覚えてしまいました。

嗜好品、特にアルコール類は緊張した心身を弛緩させるリラックス効果を生むとともに、隊員同士の交流を円滑にする効果も併せ持つ優れた一面がある一方、判断力や運動能力などが低下し、自ら事故を呼び寄せるような危うさも有しています。極寒の海と氷の大地の環境で心身の緊張を弛緩させたときの危険性を理解し、節度を保ってお酒を味方につけ、仲間との絆をより強めていくことが、観測隊の使命を達成するための近道になりそうです。なお広報隊員もお酒は準備しましたが、ブログ執筆のため文才のない脳に糖分を届けようとチョコレートや珈琲の確保に注力しました。

緑にあふれ人の営みが息づく大地とはもうすぐお別れとなり、我々は少なくとも約4カ月間はこの環境に戻って来られなくなります。家族との別れとはまた別な、社会と隔絶してしまうことの漠然とした寂寥感を覚え、最後の夜は時間を忘れてフリーマントルの夜景を眺め続けていました。

(JARE65 丹保俊哉)

出港前の穏やかなうちに「しらせ」艦尾の飛行甲板にて「65」の人文字集合写真を撮影しました!かっこいいでしょ?
撮影:砕氷艦「しらせ」写真長(2023年11月29日)
倉庫から観測隊公室へと嗜好品の段ボールを次々にバケツリレーする観測隊一同
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)
観測隊公室のテーブルに段ボールの山が積み上がっていきます。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)
全ての段ボールが観測隊公室に運び込まれると今度は各員の注文に従って商品を選び、当人の寝室前まで運び出す作業が始まります。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)
椅子に乗っている量が一人の注文分です。人によって分量はまちまちですが、この分量は多い方ですね。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)
観測隊寝室前通路にできた段ボールタワー。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)

バケツリレーの様子を映像でご覧ください!
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)

出港前の講習で「しらせ」乗員の皆さんから艦内生活のルールなどをお話いただきました。写真では溺者発生時や航行中に離艦が必要になったときなどのルールを運用長より説明いただいています。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)
更に飛行甲板に場所を移して、救命胴衣の着衣訓練とイマーションスーツと呼ばれる断熱性と浮揚性のある救命具の着用方法を受講しました。「しらせ」乗員の皆さん、暑いなかありがとうございました!
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月26日)
フリーマントル港にて生鮮食料品の積載作業中の様子。この日、同じ岸壁にはクイーンエリザベス号が入港しました。船上からお互いの船を物珍しそうに伺うことがあり、妙な気恥ずかしさと優越感のような気持ちを覚えました(あと悔しさも)。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月27日)
出港前におこなわれた講習は、過去の南極行動中の事故例から教訓を学ぶものや、南極の気象、海洋観測中の注意点、昭和基地での各種車両の運用ルールなど多岐の分野に及び、こうした講習からも南極の非日常性を感じました。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月28日)
新たに乗船した観測隊員一同から「しらせ」に感染症を持ち込むことを防ぐため、観測隊の利用区画の清掃は一週間、自分たちでおこないます。写真では洗濯機、乾燥機のフィルターを掃除しているところです。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月27日)

同じくこちらは浴室の掃除をおこなっている隊員・同行者の様子です。
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月29日)

11月30日10時、いよいよ南大洋に向けてフリーマントル港を出港しました。在住日本人会の皆さん、突堤先端までお見送りいただきありがとうございます!行ってきます!!
撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年11月30日)

(JARE65 丹保俊哉)