車両整備から隊を支える

観測隊には雪上車や車両全般の専門技術、知識を持った2名の隊員がいます。雪や氷が融けて地面が現れる夏の昭和基地では、トラック、クレーン車、フォークリフトなど、タイヤを装着した車両が活躍します。地面が雪や氷に覆われる冬の時期や海氷上、さらには南極大陸の氷床上では、履帯※を装備した雪上車が活躍しています。現在、昭和基地にはタイヤを装着した車両、履帯を装着した車両や重機など合わせて約50台が稼働しており、2名の機械隊員が年間を通じて車両の維持整備に努め、隊の活動を支えています。

64次隊の雪上車担当 古見隊員(左)と車両全般担当の古田隊員(右)
撮影:JARE64 白野亜実(2023年5月31日)、中川潤(2023年9月5日)

基地主要部にある自然エネルギー棟内には車両整備場があり、取材に伺った時は古見隊員が今年11月に内陸調査旅行に出発する大型雪上車を整備しているところでした。内陸調査旅行の目的地であるドームふじ基地までの道のりは昭和基地から約1,000km。南極氷床上を観測を行いながら往路は約3週間かけて走行します。旅行中になにかトラブルがあってもすぐに基地に戻って整備できるわけではないので、車両の足まわり、タイヤや履帯を重点的に、エンジンや油圧関係機器等の点検整備、さらには車内の装備やカーペット清掃までふたりで協力して進めていました。

車両整備場に入れるとひときわ大きく見える内陸調査旅行用の大型雪上車
撮影:JARE64 白野亜実(2023年9月20日)

雪上車や重機などは、昭和基地内の物資搬送作業やブリザード後の除雪作業等にも活躍します。越冬期間の初めに実施する雪上車講習や練習を経て、隊員たちは運転や操作を学んでいますが、予期せぬトラブルに見舞われることもあります。そんなときは、「古見さん、古見さん、感度いかがですか。車両で不具合が発生してしまい…」という無線連絡が入ります。都度、丁寧に対処してくれる古見隊員には、みんな頭が上がりません。車両を運転する隊員たちに日頃から心がけてほしいこと、気をつけてほしいことを古見隊員に聞きました。「車両はやさしく操作し、急旋回は決して行わず、丁寧に乗ってもらいたい。運転前後の車両点検は念入りに、もしも何かあったらすぐに知らせてほしい。」と話してくれました。

車両に軽微なトラブルがあっても屋外でもすぐに対処してくれます
撮影:JARE64 白野亜実(2023年10月10日)

37次隊で初めて南極観測隊に参加し、今回南極での越冬は6回目となる古見隊員。64次隊では、基地を維持・運営する設営部門をとりまとめる設営主任も務めています。まさに越冬隊の屋台骨のような存在であり、経験と技術で私たちを主導してくれます。本ブログの読者の方には、南極に関心があったり、いつか南極観測隊に参加できたらいいな、と思っている方もいるかもしれません。そのような読者の方に向けて、メッセージをお願いしました。「南極観測隊に興味関心があれば、ぜひそれを周りの人に伝えてみてください。そうすればきっと関わりのある人へとつながり、道が拓けると思います。前向きに自分から発信してみてください。」古見隊員から、力強い言葉をいただきました。

JARE64 白野亜実)

橇(そり)を引く車両を誘導する古見隊員。車両整備以外にも設営部門の多岐に渡る仕事をこなします
撮影:JARE64 白野亜実(2023年9月22日)

※履帯…鋼の板を帯のようにつなぎ合わせ、輪にして前後の駆動輪にかけ渡し、回転させて車両を走行させる装置。