無線通信で隊員の安全を守る

無線通信は、南極の厳しい環境下で隊員が安全に活動するための大切な連絡手段です。昭和基地内ではインターネットがつながりますが、野外行動では隊員にとって無線通信が命綱となります。そのため昭和基地の通信室には通信隊員が常駐し、適時必要な情報を伝えたり、天候急変時には隊員の所在確認を行ったり、隊員同士の通信がうまくいかない場合に中継したりと無線通信で隊員の安全を守っています。

64次隊の通信担当、戸田隊員
撮影:JARE64 白野亜実(2023年9月20日)

昭和基地には、無線通信回線として大きく分けて 短波(HF)・超短波 (VHF )/極超短波(UHF)・衛星通信の3種類を配備していて、交信相手との距離や目的により、これらの回線を使い分けています。観測隊では、無線通信士及び無線技術士の資格を持った隊員が通信回線の運用、通信機の保守にあたっています。64次隊では戸田隊員が無線通信を担当し、いつも温かく力強い声で隊員の活動を支えています。「昭和通信、昭和通信。」と呼びかけると迅速に応答し、いつも的確な言葉を返してくれる戸田隊員の声には、初めて観測隊に参加する隊員はもとより、経験豊かな隊員たちも大きな信頼を寄せています。

通信機器、アンテナ設備の点検に向かう
撮影:JARE64 白野亜実(2023年9月30日)

南極大陸上での調査や作業等のため、隊員たちが宿泊を伴う野外行動に出発すると、毎日夜20時から定時交信を行います。取材したこの日は、来夏の内陸調査旅行に備え、燃料の輸送や昨夏から保管している橇(そり)持ち帰りのために大陸上で行動中のチームと定時交信を行いました。
まず野外行動チームから現在地、人員・装備・車両の異常の有無、現地の気象状況、当日の行動や翌日の行動予定が伝えられます。次は、昭和基地から翌日、翌々日の気象情報や連絡事項等を伝えます。それから越冬隊長から今後の指示が出たり、天候の見通しを確認したり、なにか装備や車両に不具合があった場合にはその対処法を尋ねたりなど、会話のキャッチボールが続きます。最後は観測隊で通信の終わりを表す言葉「さようなら」の挨拶で定時交信が締められます。野外行動チームにとって、無線通信で交わされる情報が今後の方針を決めるうえでの重要な判断材料になります。

定時交信の時間、基地を離れている仲間の動向を案じて通信室に集まる隊員たち
撮影:JARE64 白野亜実(2023年9月19日)

通信隊員の仕事には、通信機器やアンテナ設備に係る技術と知識だけでなく、各隊員から寄せられる多様な連絡に迅速に対処する力が必要です。加えて、いつ何時寄せられるかわからない通信を常に耳を澄まし待ち続ける場面も多く、忍耐の時間も多そうです。今回3回目の越冬隊参加となる戸田隊員に、通信の仕事にかける想いを聞いてみました。

「通信の相手方のほとんどは極寒の南極で野外観測や作業をしています。そのことを常に忘れず、必要のない通信は行わず、できる限り簡潔・明瞭をポイントに伝えています。無線通信は、目にも見えず、匂いも味もしませんが、『通信は聴いて守る』ことがやりがいです。」と頼もしく話してくれました。

JARE64 白野亜実)