真冬の昭和基地は曇りや雪の日が多く、吹雪も数日おきにやってきます。天候の穏やかな日を狙って、観測部門の瓢子(ひょうご)隊員が、昭和基地内の観測機器や建屋の月末点検に出かけるというので、7月28日に同行しました。本記事では詳しい観測の目的や内容には触れませんが、観測部門の隊員の仕事ぶりの一場面を紹介したいと思います。
瓢子隊員は、越冬隊が実施する観測のうち測地(地球表面の位置)、海洋潮汐(潮の満ち引き)の定常観測、気水圏(地球の大気・海洋・雪氷の部分)、地圏(地殻・マントル・核※1からなる固体地球部分)のモニタリング観測、また越冬中の電離層(地球大気の上層部分)定常観測についても担当しています。これらの観測データは、インターネット回線を通じて日本国内へ送られており、同時に昭和基地内でも観測データが正しく取得されているか確認できます。しかしながら南極特有の低温や強風など過酷な自然環境のなかで観測を続けているため、観測機器に異常や故障がないか、建屋に雪が降りこんでいないかなど、各所を巡って監視し、様子を記録する必要があります。
今回点検で巡ったところ
① | 電離層棟 |
② | 西の浦験潮所と潮位計に繋がるケーブル |
③ | 電離層観測小屋と電離層デルタアンテナ |
④ | インフラサウンド観測点の1つめ |
⑤ | 国際観測網のGNSS連続観測局 |
⑥ | 重力計室 |
⑦ | 地震計室 |
⑧ | インフラサウンド観測点の2つめ |
⑨ | コーナーキューブリフレクター |
⑩ | インフラサウンド観測点の3つめ |
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)、瓢子俊太郎(2023年8月17日)
電離圏は地表から高さ60㎞~1000㎞程に存在する地球の大気が太陽の光などを受けて電離し、電気を帯びた粒子からなる領域で、その状態により通信・放送やGPSの測位等に影響を及ぼす可能性があります。電離層観測小屋では、デルタアンテナを用いて電離圏の調査研究のため観測を行っています。
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
GNSSとは衛星測位システム(Global Navigation Satellite System)のことを表し、GNSSアンテナは衛星から送信される衛星の位置や信号送信時刻などの情報を受けるものです。この観測点は昭和基地周辺の測量の原点として位置づけられていて、36次隊(1995年)の観測点の設置から衛星測位による継続的な測量を行っています。1999年には国際GNSS事業の国際観測網の観測局として登録され、また高精度な地球基準座標系※2という社会インフラの構築、維持の一端を担っています。
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
インフラサウンドとは、人が聞こえる周波数範囲よりも下域の、20Hz以下の長周期音波のことを言います。この領域の音波は、大気中であまり減衰せずに数千km以上の長距離を伝わる特性があり、インフラサウンド観測では、地球大気の低いところで起きる現象や南半球で発生する地震動など様々な波を検知することが期待されています。昭和基地周辺には3基のインフラサウンド観測点があり波の到来方向の検知が可能です。
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撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
コーナーキューブリフレクターは、人工衛星「だいち」が搭載している合成開口レーダーの地上校正用の装置です。昭和基地上空を「だいち」が飛行する際に、衛星が発した電波を正確に衛星にはね返し、レーダーの性能検証などに用いられています。
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おつかれさまでした!
撮影:JARE64 白野亜実(2023年7月28日)
午後の始業後すぐに出発したものの、基地の居住エリアに帰り着いたのは16時半ごろになっており、辺りはすっかり暗くなっていました。幸いこの日の点検で異常等は認められず、瓢子隊員も私もホッとしました。観測データが正しく取得されていることを当たり前と思わず、モニタリング観測隊員の日頃の監視のおかげであることを心に留めておきたいと思いました。
(JARE64 白野亜実)
※1地殻・マントル・核…地球の内部の3つの層を表し、地殻は地表から30~40kmの深さの岩盤の層、マントルは地殻の下から深さ2900kmくらいまでの岩盤の層で、地殻とマントルは二酸化ケイ素を主成分とする岩石からなる。核はマントルより下にあり、成分は鉄からなる。
※2地球基準座標系…宇宙から測地観測による得られるデータに基づいて国際機関(国際地球回転・基準点事業IERS)が提供する 3次元の直交座標系。