第65次南極地域観測隊設営部門(夏隊)の計画の一つに、昭和基地で夏期間に観測隊員が滞在する新夏期隊員宿舎(以下、新夏宿)の建築工事(第1期)があります。現在使用している第一と第二、2棟の夏期隊員宿舎(以下、一夏、二夏)は築40年を超えていて、南極の厳しい環境で使用を続けるには、そろそろ限界を迎えつつあるためです。建替え工事は3ヶ年を掛けてコツコツと、でも短い滞在期間中に慌ただしく行われ、65次隊では1階部分までを建て終える計画です。
建築資材はすべて南極観測船「しらせ」で運ばれます。船に積み込める荷物の量には限りがあり、あれもこれもと積み込めるわけがなく、重さも大きさも必要最小限にすることが求められます。しかし建材の数や寸法が足りなかったでは済ませられません。そのため現在、国立極地研究所の敷地で新夏宿の仮組作業が進められています。メーカーより納品された、実際に昭和基地に持ち込む建材を使って1階部分を完成させるのです。昭和基地で不測の事態が発生することがないように、事前に問題点を洗い出す確認作業です。
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年7月24日)
仮組といっても、しっかりちゃんと本気で建てます。梅雨も明けて盛夏の、ぎらぎらとした日差しの立川で、設営部門の隊員たちが慎重に打ち合わせつつ建材を組み立てています。ときに大きな槌音(つちおと)を繰り返し響かせることもあります。昭和基地のある東オングル島とは、気象条件が大きく違う環境での仮組作業です。鉄骨や木材は温度差で伸び縮みするため、そうした条件差も考慮しながら作業を進めますが、ときにはああでもないこうでもないと組み上げに四苦八苦することもあるようでした(そのための仮組作業ですね)。
仮組作業のそばでは、クレーンを使った建材の積み上げ作業が行われていました。暫しその様子をそばで観察していましたが、建材の山を右から左に移しているだけのように見えることを不思議に思って、作業に従事していた永木毅副隊長(兼夏副隊長:内陸オペレーション担当)に伺ったところ「建材の積み上げ方を最適化し、できるだけ少ないコンテナに積載するためと、建材の使用する順番に合わせている」とのことでした。いやはやなるほどと頭が下がりました。
ちなみに現在使用されている一夏と二夏は、昭和基地の中心部(管理棟)までそれぞれ450mと700mほど離れていて徒歩通勤しています。一般的な人の歩行速度(4km/h)では、それぞれ7分と11分程度で、たいしたことのない距離と思われるかもしれません。ですが舗装路があるわけではありませんし、1月(夏)でも最低気温は-10℃、吹雪になることもあります。新夏宿の機能が発揮されればより安全に、そして職住環境が隣接することで時間効率が改善されることにつながるのです。
(JARE65丹保俊哉)
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撮影:JARE65 松本巧也(2023年7月10日)
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撮影:JARE65 山岡麻奈美(2023年7月11日)
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撮影:JARE65 山岡麻奈美(2023年7月25日)
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撮影:JARE65 松本巧也(2023年7月12日)
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撮影:JARE65 松本巧也(2023年7月18日)
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撮影:JARE65 丹保俊哉(2023年7月24日)