越冬隊には2名の医療隊員がいて、隊員の健康を守るとともに、ケガや病気に備え昭和基地の医務室、通称「オングル中央病院」で診療を行っています。国内の医療水準には叶いませんが、血液検査など各種検査装置のほか、外科的手術設備、レントゲンやエコーなどの画像診断装置等が設置されています。
南極は強風や低温など過酷な環境であることに加え、航空機や船舶が近づけない冬のあいだは、万一急病人が発生しても容易に帰国することはできません。観測活動や設営作業を続けていくには、越冬隊員たちが事故や病気なく元気に過ごすことが大切です。そのために日頃から隊員の健康を守り、時に必要な医療でサポートしてくれる医療隊員の活躍が欠かせません。
医務室の様子を取材した日、日本国内の医療機関とオンライン会議システムを使って遠隔医療相談が行われていました。医療隊員は専門外の医療行為に広く対応できるよう日頃から準備をしていますが、症状によっては国内の専門医のサポートや助言を受けられるよう遠隔医療体制が整っています。
また昭和基地で手術が行われることはめったになく、取材したこの日、手術室では今年11月出発予定の南極大陸の内陸への調査旅行に向けて、持参する医療器具の準備と荷造りが行われていました。この旅行でも、忘れ物があっても容易に補給することができないため、必要な物品が揃っているか何度も確認し、必要な時に取り出しやすいところに荷詰めするなど真剣に作業をする様子が印象的でした。
医療隊員の二人に日頃から思っていることを聞きました。三上隊員は、「越冬生活では、医療隊員の仕事がないことが一番。毎朝、今日も1日何事もないようにと願っています。南極での越冬が終わっても人生は終わりではないので、ご自身の健康と向き合う生活はずっと続いていくことを隊員一人一人に意識してもらいたい。」と話してくれました。また、井上彩隊員は「南極での生活を満喫し、隊員みんなで元気に笑って日本に帰れるよう支えていきたい。」と話してくれました。日ごろは健康の大切さを忘れがちですが、医療隊員のサポートのお陰で元気に観測活動や設営作業にあたることができていることに感謝したいと思いました。
(JARE64 白野亜実)