昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾は、湾奥に陸地に張り付いた定着氷、その沖に風や海流で流れる流氷が集まる流氷帯、そして、さらにその沖に風波やうねりの影響が強い氷縁域が広がります。海氷の厚さは、定着氷では数メートルにもなり、時には船の進行を妨げます。「しらせ」は海氷に阻まれると、自重で氷を割りながら進むラミング航法を駆使して南下します。そのラミングの回数が十数年のサイクルで増えたり減ったりしますが、定着氷の大崩壊と流出が発生すると、「しらせ」のラミング回数が激減することがわかっています。この定着氷の崩壊のカギを握るのが、北から伝搬するうねりと考えられています。南極大陸の北には暴風圏が広がり、低気圧で発生する高い波浪は、流氷帯に阻まれエネルギーを失いながらも定着氷域に侵入します。そして波長数百メートルにもなる長いうねりで定着氷は上下に揺さぶられ、やがて、崩壊します。しかし、その波浪を直接計測した事例はありません。この課題に独自開発の波浪ブイを駆使して挑むのが、「しらせ」を拠点として活動する波浪海氷チームです。
波浪ブイは、「しらせ」航路上の氷縁域、流氷帯、ポリニア・リード(氷で囲まれた海水域)、定着氷上にクレーン、ロープで降ろすなどの方法で設置されました。
定着氷上に設置された15基のブイについては、後日、観測隊ヘリで再訪しました。目的は、ブイ設置位置の氷の厚さを計測することです。隊員5名が協力してGPSを頼りに一つ一つ目視で見つけては、安全を確認しながら海氷上に着陸し、近傍で氷厚を計測しました。計測結果からは、見事に北から南へと定着氷の厚さが増えていることがわかりました。
この研究を取りまとめる早稲田隊員は「定着氷が直接波にさらされるようになる3月、4月ころに、15基のブイが、うねりが海氷下を伝搬する様子をとらえることが出来るか、毎時衛星通信で送られてくるデータをこれから見ていきたいと思います。そして、うねりの侵入と定着氷崩壊のタイミングが一致することが計測できれば、今後は定着氷の経年的な変化と暴風圏の気象場との関係などを解明したいと思います。そして、『しらせ』の航行をはばむ厚い定着氷の成長を予測することが出来るようになれば、昭和基地への物資輸送の長期計画ができるようになると期待します。」と語りました。
(JARE64 山口真一)