衛星通信設備保守訓練

昭和基地ではインターネットが観測に活用されていることをご存知でしょうか?

昭和基地と国立極地研究所はインテルサット衛星を介した衛星通信回線で結ばれており、国立極地研究所においてインターネットと接続しています。観測データの多くはインターネットを利用してリアルタイムに全世界に届けられています。昭和基地での観測は意外に近代的と思われませんか?

衛星通信設備の安定稼働を目指し、日本側のインテルサット衛星の送受信設備があるKDDI山口衛星通信所で、衛星通信設備の保守訓練を実施しました。

写真1:衛星通信に関する座学の様子

衛星通信を担う設備は、大きく分けて3つあります。効率よく送受信をするための信号を作り出す「モデム(変復調装置)」、電波の送信出力を調節する「アンプ(増幅器)」、そして電波を送受信する「パラボラアンテナ」の3つです。訓練では、3つの設備を実際に操作し、体に覚えさせてきました。

最初に、モデム(変復調装置)の操作訓練を行いました。訓練では、日本側と昭和基地側に見立てた2台のモデムを用意し、ケーブルで直結した構成を作りました。電波を出さずに訓練を行うための構成ですが、写真2のように複雑な配線となります。この経路をひとつずつ確認することによって、実際に電波を出したときの信号や電波の経路が立体的に頭に入ってきます。操作訓練では、片方のモデムの設定を変えた際に、もう片方のモデムがどのように動作するかの確認や、通信に不具合があった際に、モデムの管理画面の表示がどのように変化するかなどを確認しました。

写真2:モデムの操作訓練の様子(複雑な配線になっています)

次に、アンプ(増幅器)の操作訓練を行いました。電波を出さずに訓練ができるようになっている増幅器を用いて、希望の出力になるよう機器を操作する訓練を行いました。モデムと増幅器の間にあるケーブルなどの影響を受けて電波は弱くなるため、それを計算に入れて測定器を確認しながら増幅器の出力を調整します。難しい作業ですが、無線屋(無線担当者)ならではの面白い作業です。

写真3:アンプの操作訓練の様子
(ケーブルなどの影響度合いを測定器で確認しているところです)

最後に、パラボラアンテナを希望の向きに変える訓練を行いました。平常時は写真4のように制御装置のボタンを操作することで向きを変えます。電気の力を利用していますので、操作を覚えてしまえば楽々です。訓練では、運悪く制御装置などが故障したときに備えて、手動での対応方法も確認しました。実は非常時の対応方法を確認するほうが重要です。大きくて重いパラボラアンテナの角度を人力で変えるためのハンドルを取り付け、かなりの力を込めて写真5のようなハンドルを回します。角度を1度変えるだけでも数分間かかります。この経験をしておくことが非常時の迅速な対応につながります。
その他にも、パラボラアンテナが正しい向きに向いているかどうかを確認するための測定器の操作や、パラボラアンテナを支える金属製の台座が滑らかに動くように潤滑油を塗布する作業なども、実施しました。

写真4:自動で向きを変える訓練の様子(奥で制御盤を操作し、手前で受信電波の強さをもとに向きが正しいかを確認しています)
写真5:手動で向きを変える訓練の様子(ハンドルを回してパラボラアンテナをごくわずかずつ動かしています)

訓練を終え、インド洋衛星向けインテルサット用パラボラアンテナを撮影して、KDDI山口衛星通信所をあとにしました。

写真6:インド洋上衛星向けインテルサットパラボラアンテナ(水平線ぎりぎりから到来する電波を捉えるアンテナです)

山口市内には、パラボラアンテナをデザインしたマンホール蓋があります。山口市を中継地として昭和基地と世界がつながっています。

写真7:山口市内のマンホール蓋(パラボラアンテナがデザインされています)
撮影:JARE64 中村映文(2022年9月9日)

(JARE64 中村映文、井上誠)