昭和基地では極夜が終わり、晴れた日には太陽が顔を出すようになりました。約1か月半ぶりに浴びる日光はやはり気持ちが良いものです。
ということで昭和基地での気象観測シリーズ、今回は太陽光を使った観測「日射放射観測」について紹介します。といっても「日射放射」と聞いてピンとはこないと思います。太陽から地球が受け取るエネルギーである「日射」、そして逆に地球から宇宙空間へ放出されたり、雲や温室効果ガスによって地球に再び放出されたりするエネルギーである「赤外放射」を観測しています。これらのエネルギーの出入りは大気の原動力になります。また、長期的な日射放射観測データは地球温暖化といった気候変動を評価に役立てることができます。二酸化炭素に代表される温室効果ガスによる影響は、その量そのものがどれだけ増減しているかということだけではなく、温室効果ガスが吸収したエネルギーがどれだけ地球に再放射されているかを知ることが、気候変動予測の検証や今後の正確な予測のために非常に重要です。このエネルギーの出入りを知る観測が日射放射観測です。
昭和基地での日射放射観測は、国際的な研究観測網である基準地上放射観測網(BSRN)の観測点の1つです。BSRN観測地点では、現在達成可能な最高水準の観測精度で観測するように求められています。なので、その基準を達成するために、昭和基地でも様々な工夫をしています。例えば2つの観測機器を組み合わせて観測する、といった、説明がちょっと難しい(?)観測方法もあります。また観測精度を維持するための大事な作業の一つに、観測機器が太陽光を受ける窓の「窓ふき」があります。この窓ふきにより観測誤差をかなり低減させることができることから、精密な観測精度を保つため気象隊員にとって非常に大切な仕事になっています。気象隊員は、基本観測棟屋上に設置されている測器については毎日、海氷上に設置されている測器については週に1回、受光面の清掃を行っています。
さらに、日射放射を散乱・吸収することで地球に影響を及ぼす大気中の微粒子「エーロゾル」の観測も併せて行っています。61次隊で新しい測器が導入されて、エーロゾルの「量」だけでなく、その微粒子がススなのか砂塵なのかといった「質」も推定できるようになり、さらに62次隊からは、これまで日光で行っていた観測に加えて月光を使った観測も始まりました。これにより日射がほとんど無い極夜期でも観測データを得ることができるようになりました。
このように精密に測定された日射放射などの観測結果は地球を暖める(または冷ます)物差しの1つとなります。時には観測機器に霜が付くなど南極は過酷な環境ですが、こういった精密な観測を積み重ねることで地球環境や気候変動の一端を明らかにすることができます。
(JARE63 佐藤幸隆)