ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが南極の昭和基地にも届きました。南極にはロシアとウクライナ双方の観測基地があります。観測・研究の成果を競う国際的競争の側面もありますが、国際協力なくして南極観測は成り立ちません。今回は、南極における科学的調査の自由と平和的利用に関するルールである「南極条約」を取り上げます。
南極条約は、1959年に日本、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連(当時)など12か国により採択され、1961年に発効しました。昨年(2021年)6月に発効から60周年を迎え、現在の締約国数は54に上ります。主な内容は、南極地域の平和的利用(軍事基地の建設、軍事演習の実施等の禁止)、科学的調査の自由と国際協力の促進、南極地域における領土権主張の凍結などです。
締約国の中でも、南極に観測基地を設けるなど積極的な科学調査を行っている29か国を南極条約協議国といい、ロシアとウクライナもその一員です。協議国は、南極条約に基づき毎年会議を開催し、南極地域をめぐる様々な課題について協議を行っています。日本は、南極条約の原署名国であり、1960年に条約を締結して以来、協議国の一員として南極条約および同条約環境保護議定書に基づく活動等を通して責務を果たしています。
(参考:外務省ウェブサイト)
南極での国際協力の一例が、昭和基地のある東南極のDronning Maud Land地域に基地を持つ12か国が、隊員移動、物資輸送、緊急医療搬送用の航空機共同チャーターや、各基地滑走路の整備や給油支援など、1か国ではできない体制を互いに補いながら維持しているドロンイングモードランド航空網(DROMLAN)です。
南アフリカのケープタウンから約4200km離れた南極にある航空サービス提供会社ALCIのノボラザレフスカヤ滑走路までの大陸間フライトには大型ジェット機が使われており所要時間は約6時間、ノボ滑走路から各国の基地を結ぶ大陸内フライトにはプロペラ機が使われており、約1000㎞離れた昭和基地までは約4時間の飛行となります。
63次隊ではドームふじ基地への内陸旅行に参加する先遣隊がDROMLANを利用して南極入りするなど、近年、日本の観測隊でも目的に応じて積極的に活用しています。
(DROMLANの詳細については極地研 南極観測のページもご参照ください。)
南極地域における国際協力が引き続き進展するとともに、今回の事態が速やかに平和的に解決されることを願ってやみません。
(JARE63 馬場健太郎)