前回の記事「ドーム旅行中の移動」に続いて、移動中の観測の様子をご紹介します。
本旅行の主目的はドームふじ周辺での氷床レーダー観測や物資輸送ですが、内陸旅行出発拠点S16からドームふじにかけての移動中にも様々な観測を実施しています。本記事ではそれらの一部を紹介します。
■雪尺観測
S16からドームふじまでのルート1000kmにおいて2km間隔で設置された竹竿の、雪面上に出ている部分の長さを計測します。また、計11地点に36本雪尺網や50本雪尺列が設置されており、それらの長さも計測します。長さが70cmを下回るものは建て替えを行います。この観測は観測隊発足初期から継続して実施されており、各観測の間に竹竿がどれだけ短くなったか、すなわちその場所で雪がどれだけ堆積したか、また堆積量の年々変化はどの程度か、などを知ることができます。日本は長期間の連続的データを強みとしています。越冬隊員の中ではこの目的を知らずに観測を担当する方もいるそうですが、ぜひ認識していただきたいなと思います。ちなみに写真のような斜めの竹竿はよろしくないのでなるべく鉛直に埋めましょう。
■AWSメンテナンス
南極には自動気象観測装置が設置されており、気温計、風速計、積雪深計、放射計などが取り付けられています。今回はS16-DFルート上のH128、MD78、MD364、NDFでメンテナンスを行いました。内容は装置の根元を1m程度掘り、制御部を取り出してソフトウェアを更新したり、新しい測器を取り付けたり、全体のかさ上げを行ったりと場所によって様々です。
■ゾンデ観測
ゾンデを空に放ち、気温や気圧などの鉛直分布を観測します。S16~DFルート上における12月のデータがこれまでなかったそうで、気象庁の新居見隊員を中心に1回目復路の毎キャンプ地で実施されました。天候にも恵まれすべてのキャンプ地で実施することができました。
■積雪サンプリング①
モニタリング観測課題として、1000kmの走行ルートで10km間隔で実施しました。試料は国内に持ち帰り水同位体などの分析に使用されます。サンプリングはベテランの本山隊員によって実施されました。
移動中に観測を行う車両は先行する車両から徐々に引き離されてしまいます。そのためルート上で車両を止めたら、急いで車両を降りて、橇から物資を引き出し、観測を始めます。
■積雪サンプリング②
森野隊員が実施しています。2回目往路18地点でサンプリングを行い、試料を国内に持ち帰り、新たな試みとして水銀を分析してみるとのことです。
■積雪サンプリング③
森野隊員のサンプリングと同様に学生同行者の大谷さんが2回目往路18地点で実施しました。こちらは微量に含まれる放射性同位元素を分析するため、1地点で4kg以上の雪試料を採取しました。作業に慣れてくると1回の観測を10分で終わらせられるようになり、先行する車両に大きく離されることもありませんでした。
■積雪近赤外光反射率の観測
同行者の井上の課題です。積雪の近赤外光反射率は積雪の粒径と相関することが知られています。目視で粒径を判断するとどうしても個人差が生じたり、おおよその数字になりますが、代わりに光の反射率を測定することで主観を交えず、また簡易的に粒径を計測することができます。今回はルート上約20km間隔で観測を実施しており、南極の積雪粒径の詳細な広域分布を初めて現場観測することに挑戦しています。
■1m積雪断面観測
2回目往路のキャンプ地を中心とする計15地点において森野隊員・井上で実施しました。1mのピットを掘り、その断面の層位、雪質、雪温、粒径、密度、また粒径の深度発展を詳細にとらえる目的で近赤外光反射率を観測するとともに、トリチウム分析用の試料をサンプリングしました。沿岸から内陸にかけての違いがみられて面白い観測ですが、なかなか骨の折れる仕事でして、1回2時間程度の観測をキャンプイン後に行うため、終了が23時近くになってしまいます(翌朝は6時前には起床)。かなり消耗しましたがなんとかドームふじまで観測を達成しました(ブログ更新も途絶えました)。
(JARE63 井上崚)