1月19日、その日の朝はやってきた。昭和基地の越冬隊員は、越冬交代を経て基地のすべての運営を担うという責任の重さをひしひしと感じている。それまで頼りにしていた先輩越冬隊員や夏隊員が「しらせ」に戻ると、昭和基地は越冬隊だけとなる。早ければ11月上旬に航空機で第63次隊の先遣隊が昭和基地に入るかもしれない。そうだとしても約10か月間は、何が起ころうとも31名の越冬隊員だけで解決しなくてはならない。大丈夫、そのために選ばれた隊員が、国内から時間をかけて準備をしてきたのだから心配はいらないし、予想外の出来事でも力を合わせて乗り切るのが越冬の醍醐味だ。
好天に恵まれた夏期オペレーション(夏オペ)だが、天候は下り坂で、午後からは風が強まる予報のため、朝一番に最終便1フライトが行われた。昼過ぎ、越冬隊員の見送りを受けて「しらせ」は昭和基地を離岸して、帰路に就いた。1月18日の越冬交代便、19日の最終便と「しらせ」離岸、この2日間、越冬隊は見送り続きで気持ちも落ち着かなかったはずだ。急に切り替えるのは容易ではないが、徐々に越冬の生活や業務に入っていくことだろう。
「しらせ」は、離岸後、ものの数時間で、往路で第一便を飛ばした地点まで戻った。その付近からはラミングが必要な定着氷となり、海洋観測を行いつつリュツォ・ホルム湾を北西に向かう。往路では停船観測は一度も行なわなかったため、最初の停船観測では、海洋観測チームと「しらせ」乗員との連携を確認しつつ、慎重に作業を進めた。これからリュツォ・ホルム湾沖合に到達するまでの間、ほぼ毎日、停船観測が予定されている。出港から2か月が経ち、夏オペでは他部門の観測支援に惜しむことなく力を尽くしてくれた海洋観測担当隊員は、ようやく自らの観測に臨んでいる。
1月20日、風はそれほど強くないが、曇天と弱い雪のため、ホワイトアウト模様となった。往路で手強かった海域は、復路でもラミングでの進出距離はなかなか伸びない。「左舷前方300mにコウテイペンギンの群れ」との艦内放送が入り、甲板に出てみると、確かにコウテイペンギンだ。アデリーペンギンを見たことのある人は、初めてコウテイペンギンを見た時、遠方であっても、アデリーペンギンと見間違えることはほとんどない。それほどに、コウテイペンギンの所作はアデリーペンギンとは異なるのだ。雪も舞う中、「しらせ」には一瞥もくれずに、14羽のコウテイペンギンは黙々と、悠々と歩を進める。目を凝らすとコウテイペンギンは換羽の途中、
(JARE62 橋田元)