南極観測には祭りがある。
61次隊では、往復路のトッテン氷河沖で実施される集中観測を「トッテン祭り」と称してきたが、ここにきて、新たな祭りが持ち上がった。
「とっつき岬ドラム缶フェスティバル2020」
事の発端は、出国前から往路「しらせ」船上まで遡る。
昨シーズン、東オングル島に位置する昭和基地から対岸の南極大陸へ登るポイントであるとっつき岬(大陸に上る場所=とりつく場所、の意)の目の前に横たわるタイドクラック(潮の満ち引きにより陸地近くの海氷に生じる割れ目)が拡大し、雪上車で思うように大型物資の移動ができなかったとの情報が61次隊が国内にいる段階からもたらされていた。数年後に計画されている第3期ドームふじ氷床深層掘削計画の準備のため、大量の燃料を南極大陸氷床上に持ち上がる必要があったが、それができないかもしれないピンチである。
どうすればこの状況を打開できるのかを、往路航海中、青山雄一越冬隊長や車両担当で設営全体のとりまとめを担う森脇崇夫隊員、雪上車を担当する倉本大輝隊員そして野外観測支援を担当する小久保陽介隊員を中心に様々な角度から検討され、最終的には、南極大陸上でドラム缶を積み込むための橇が十分に揃っているとっつき岬に燃料ドラム缶をヘリで直接送り込むことを計画した。また、現在橇に載っている使用済みの空ドラム缶72本を「しらせ」にヘリで直接持ち帰る合わせ技を繰り出すこととなった。
時は2020年1月18日、天気は曇り。朝8時に「しらせ」からヘリが飛び立ち、青山越冬隊長、倉本隊員及び小久保隊員を昭和基地でピックアップし、ヘリは一路とっつき岬の氷床上に降り立った。
以降、全17便で送られてくる一本約200kgのドラム缶計136本は、屈強な「しらせ」乗員の全面的な協力を得て、次々とヘリから降ろされ、所定の場所まで移動のうえ、整然と並べられていった。併せて、橇から降ろしてまとめてあった空ドラム缶72本が見る間にヘリに積み込まれ、飛び立っていった。
当初17時頃までかかると見込まれていたオペレーションは15時頃には無事に完了し、61次隊が「しらせ」に搭載した燃料ドラム全数が無事に南極大陸上に届けられ、「とっつき岬ドラム缶フェスティバル2020」は閉幕した。
祭りの発案者で先頭に立ってドラム缶を運んだ青山越冬隊長は、「これで第3期ドームふじ深層掘削計画へ向けた動きを進めることができそうで安堵している。このような急な計画変更に柔軟かつ迅速に対応していただいた「しらせ」乗員の皆さんには感謝の言葉しかない。」と笑顔で話した。
さて、次は何の祭りを考えようか。
(JARE61 熊谷宏靖)