「ぬるめ池」での調査はぬるくなかった(前編:なぜぬるめ池で調査を?)

18日から11日に、本隊のうち「ぬるめ池」周辺で湖底・海底の調査を行うチーム(通称:ぬるめチーム)のキャンプに合流し、取材しました。南極の強い風の中で行われた調査のレポートをお届けします。

ぬるめチームは、古気候・古環境や化石を専門とする研究者が4名(石輪健樹隊員、板木拓也隊員、德田悠希隊員、大学院生の佐々木聡史さん)、そして、野外行動でのリスク認知を調査する宮内佐季子隊員、野外観測支援担当の小久保陽介隊員の合計6名で構成されています。

ぬるめチームは1月5日にラングホブデ地域のぬるめ池にキャンプインしました。ぬるめ池は昭和基地からヘリコプターで10分ほど離れた、南極大陸沿岸の露岩域(雪や氷に覆われておらず、岩が露出しているところ)にある池(湖)です。調査は2週間の予定です。

テントサイト。ぬるめ池から徒歩1~2分のところに設営されていました。
撮影:JARE61 寺村たから(2020年1月9日)

<長い前置き:なぜぬるめ池で調査を?>

現在の地球は比較的温暖な間氷期という時代にあたります。ところが、むかしむかし、今から2万年ほど前までさかのぼると、地球は寒冷な氷期という時代(最終氷期)で、南極大陸やグリーンランドだけでなく、北半球の北米大陸やヨーロッパ北部にも、氷床が広がっていました。そのため大量の氷が陸上に固定され、地球の海水量は大きく減少し、海面は今よりずっと下がっていました。南極の氷床も今より大きく、その重さで南極大陸は今よりも沈降。結果として、南極大陸周辺の海岸線は現在よりも沖合に位置していました。

その後、最終氷期が終わると、地球上の氷床はどんどん融解して海面も上昇し、北半球の氷床がほぼとけきった8千年前くらいには海岸線が現在とほぼ同じ位置になったと考えられています。さらにその後、氷床の重さから解放された大地はゆっくりと隆起し、今でも引き続き隆起を続けています。南極大陸でも、8千年前以降、大地の隆起によって海面は相対的に低下を続けています。

ぬるめ池周辺も8千年前以降大地が隆起し続けることによって次第に相対的な海面が低下し、ついには海から切り離されて池(湖)になったのです。

氷床変動による海面変化と湖形成のイメージ図。
作成:極地研 広報室

このような場所では、湖底堆積物に残された海(海水)から湖(淡水)に変化した時期および海とつながっていた場所のうち最低鞍部の高さを明らかにすることで過去の相対的な海面の高さを決めることができます。さらに、現在の海底下に沈水した過去の湖沼の地形と堆積物の調査を行うことによって、もっと古い時代の海面変化を明らかにできる可能性もあります。このように、ぬるめ池周辺は、最終氷期以降の海面変化を明らかにする材料がたくさん見つかる可能性がある場所なのです。

ぬるめ池の全景。
撮影:JARE61 寺村たから(2020年1月8日)

ぬるめチームは、ぬるめ池の湖底の地形調査や、湖底堆積物の掘削、近くの海の海底地形の調査や、池の周辺の陸地の堆積物の採取を行い、海底地形の分析や、堆積物に含まれる化石などから、最終氷期以降の南極氷床変動を復元する上で重要な海面変化史を調べることにしています。さらに、同様の考え方で、海底に沈水した湖沼の確認調査により2万年前〜8000年前までの海面変化のデータが得られるのではないかということが、61次隊以降に期待される研究成果です。

昨年9月に実施した、静岡県での堆積物掘削の訓練のようす。水面にボートを浮かべて、底に堆積した泥を筒状に掘り抜く作業を、南極での実施に先立って国内で試験しました。
撮影:JARE61 寺村たから(2019年9月4日)

後編でいよいよ現地での取材の詳細をお届けします!後編へ続く

 

JARE61 寺村たから、極地研 広報室)