60次隊では、新たに新型大気微量成分分析装置を昭和基地・観測棟に設置し、2019年1月16日から大気中の亜酸化窒素(N2O)濃度の精密連続観測を開始しました。
60次隊が持ち込んだシステムを昭和基地内の「観測棟」で組み立てる様子
観測システムの核となる分析計(約80kg)の設置
昭和基地では長年にわたり、大気中の温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、および、その関連成分である一酸化炭素(CO)、酸素(O2)などの精密な観測を継続し、そのバックグラウンド変動を明らかにしてきました。
しかし、主要な温室効果ガスの中で唯一、N2O濃度の連続観測は実施できておらず、今年新たに装置を導入したことによって、大気中N2O濃度の精密連続観測がスタートしました。
N2OはCO2、CH4についで、3番目に重要な温室効果ガスとされています。N2Oの大気中濃度はCO2濃度の1000分の1以下であるにも拘らず、一分子あたりの温室効果はCO2の数百倍もあり、大気中の全温室効果気体が持つ温室効果の6%をN2Oが占めています。
また、N2Oは対流圏(地上約10km付近まで)では消滅せず、その上の成層圏(地上約10kmから50km)で光化学反応によって分解されるのですが、その際に生成される物質はオゾンを破壊するため、オゾン層破壊にも寄与しています。
したがって、N2Oの地球気候への影響は決して無視できないのです。
近年、世界の様々な地点での観測により、大気中のN2O濃度は増加傾向にあることが分かっていますが、その発生源は人為起源、自然起源ともに多様で複雑なため、N2Oの大気中の変動や地球表層の循環過程などについては理解が不足しているのが現状です。
それらの深い理解のためにはより多くの精密な観測データが不可欠であり、今回昭和基地でも観測を開始したことにより、地球表層のN2O循環の理解への貢献が期待されます。
組み上がった観測システム。設定調整を終え、2019年1月16日に大気中N2O濃度の観測をスタートしました。
測定する大気試料の取入れ口(中央やや右のタワー上部)。基地活動の影響を受けないよう、基地の風上側に設置されています。