南極に林立する大型大気レーダー

昭和基地の基地主要部から500m程離れた広大な敷地には、PANSYレーダー(Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)と呼ばれる約3メートルの大型大気レーダーのアンテナ1045本が直径約300mに渡るエリアに等間隔に林立しています。

PANSYエリアには、3mを超える雪が積もります。次のブリザードでどの辺りが雪に埋もれるか考えながら除雪を行い、風の通り道を作りながらアンテナ群の保守と観測の運用を行っています。

積雪の中、林立するアンテナ群
撮影:JARE66 谷川忠顕(2025年10月14日)

南極大気は人間活動から隔絶されているため人工ノイズが小さく、地球気候のモニタリングに適しており、また、カタバ風や、オゾンホール、夜光雲、オーロラを始め、顕著で特異な大気現象が多く見られる領域でもあります。PANSYシステムの特徴は、アクティブフェイズドアレイという空中線方式を採用している点で、多数の素子アンテナのそれぞれに小型のレーダーとも言える送受信モジュールが取り付けられ、電波を送受信します。

レーダーは24時間365日稼働しており、レーダーから発射される電波は大気の温度や電子密度の揺らぎにより散乱されて戻ってくる為、上層大気の散乱信号から、大気の運動(風)などの物理量を計測することができます。この散乱エコーは大変弱いので、各アンテナを一体的に運用することで大出力の送信機能と微弱な電波の受信機能を併せ持つ大型大気レーダーとしての機能を果たします。対流圏から電離圏までの広い高度領域の3次元風速やプラズマパラメータを高分解能、高精度で観測できる南極唯一の大型大気レーダーとして、2012年から南極大気の連続観測を開始し、2015年10月からはフルシステムを使った連続観測を実施しています。観測データをもとに、大気波動(重力波・潮汐波・ロスビー波)や乱流構造の解明、オゾンなど大気微量成分の輸送過程、雲の生成・消滅過程、大気中のエネルギーバランスなど、さまざまな研究に寄与すると期待されています。

ブリザードが過ぎ去ると、アンテナ一本一本壊れていないかアンテナの点検を行います
撮影:JARE66 谷川忠顕(2025年10月3日)
アンテナのボルトのゆるみなどを確認し増し締めなど、日々点検・保守を行います
撮影:JARE66 谷川忠顕(2025年10月4日)
屋内機器は半年に一度試験を行い装置の点検を行います
撮影:JARE66 谷川忠顕(2025年8月7日)
京都大学生存圏研究所の協力を得て信楽MU観測所に設置している
小さな国内システム「すみれ」を用いた国内訓練風景
撮影:JARE66 谷川忠顕(2024年10月31日)

(JARE66 谷川忠顕)