南極で地震を捉える

観測隊には、大地の変化を捉える「地圏変動のモニタリング」という観測部門があり、様々な方法で観測を行っています。そのうち今回は、地震の観測を紹介します。昭和基地の地震計室には短周期地震計1と広帯域地震計※2の2種類の地震計が設置されていて、南半球における重要な観測拠点として、1959年以来60年以上に渡ってデータ取得を続けています。

日本時間2023年4月24日9時41分(世界標準時0時41分)にオーストラリア・シドニーの東およそ2600kmの南太平洋上、昭和基地から約7400kmの距離で発生した地震3による地震波形が、昭和基地の広帯域地震計で明瞭に記録されました。また、昭和基地の超伝導重力計※4は南極氷床の増減や地球の変形5に伴う重力の変化を測定するためのものですが、今回地震による重力の変化を捉えることができました。

昭和基地の広帯域地震計で観測した南太平洋上の地震による地震波形(上下方向)
(図:国立極地研究所)

昭和基地の超伝導重力計で観測した4月24日の地震による重力変化。黄線は潮汐による重力変化。1時(世界標準時)ごろに南太平洋上で発生した地震、20時(世界標準時)ごろにはインドネシア沖で発生した地震による重力変化を捉えている。
図:国立極地研究所

今回地震を観測した昭和基地の地震計 東西・南北・上下の3成分の波形を記録する
撮影:JARE64 瓢子俊太郎(2023年4月21日)
昭和基地の重力計室内にある超伝導重力計
撮影:JARE64 瓢子俊太郎(2023年1月31日)
月例点検の一環として地震計室の室温の確認を行う瓢子隊員
撮影:JARE64 白野亜実(2023年5月1日)

年間を通じて地圏モニタリング観測の担当隊員が観測機器の保守を行い、取得された地震波形データはインテルサット衛星回線により国立極地研究所へ伝送後、公開されます。

64次隊で本担当の瓢子(ひょうご)隊員に普段どのような点に気を付けて業務を進めているか尋ねました。「日頃から地震計室の周辺の振動には留意してもらえるよう隊員に呼びかけていて、例えば車両で通過する際は私宛に通報をもらう、世界のどこかで規模の大きい地震があった場合には周囲を立入禁止にするなどの対応をしています。また広帯域地震計は温度変化にも敏感なため、地震計室の室温を適正に維持するよう毎日気をつけています。」と語ってくれました。

品質の良い観測データの継続した取得の裏には、隊員によるきめ細かな監視の目があることを改めて実感しました。

5月5日に発生した石川県能登地方を震源とする地震により、現在も不安の中過ごされている方も多いことと思います。被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

(JARE64 白野亜実)

1 短周期地震計:周期約1秒以下の短い周期の地震波を観測できる地震計。微小地震の観測に使われる。
2 広帯域地震計:周期約0.01秒から数百秒の広い周波数帯域で観測できる地震計。全球的な地震動を観測するのに適している。
3 424日に南太平洋上で発生した地震:震源位置 南緯29.968度、東経141.826度、ケルマディック諸島周辺、深さ43.1km、マグニチュードMw7.1、米国地質調査所(USGS)発表
4 超伝導重力計:安定な超伝導コイル磁場の中で浮上している超伝導球の微小な位置変化から微細な重力変化を検出することができる観測装置。2秒から数年にわたる重力変化を10-11 [m/s2]の感度で観測できるため、地震に関しては、巨大地震のあとに続く地球自由振動による重力変化を観測するのに適している。
5 地球の変形:潮汐など外部からの力や地球の自転、地震動、大気・海洋・雪氷の変動などにより地球の固体部分が変形すること。