地磁気の観測

今回は観測隊が昭和基地で行っている基本観測のひとつ、地磁気の観測を紹介したいと思います。地球が持っている磁場のことを地磁気と言い、昭和基地では1966年に7次隊が開始して以来、継続して地磁気の観測を行っています。地球内部に起因する地磁気の長期的な変動や、外部の宇宙空間に起因する短期的な変動等をモニタリングすることを目的としています。

地磁気の観測は、その時刻の地磁気の大きさ(絶対値)と方向を観測する絶対観測と、地磁気の変動成分を連続的に観測する変化観測から成ります。地磁気の大きさと向きを正しく知るには、温度変化や太陽フレアによる地磁気の乱れなど外的要因による影響を差し引くことが必要です。そのため昭和基地では、地磁気が静穏で風が弱い日を選び、月に1度を目安に地磁気絶対観測を行っています。今回は3月に行われた観測の様子を取材してきました。

地磁気絶対観測を行う地磁気変化計室(1966年建設) 他の建屋からも離れた場所にあります
撮影:JARE64 白野亜実(2023年3月21日)
地磁気絶対観測を行う小池隊員 写真は観測開始前に磁北を正確に把握する作業を行うところ
撮影:JARE64 白野亜実(2023年3月21日)
昭和基地に設置されている地磁気絶対観測の方位標 磁北を計測する際の基準となる
撮影:JARE64 小池陸斗(2023年1月25日)

地磁気絶対観測では、昭和基地での真北と磁北のずれを表す偏角、地磁気が水平面となす角度である伏角、地磁気の大きさ(絶対値)の3項目を計測し、地磁気のベクトルを導き出します。磁気儀を繊細に操作し、誤差をなるべく小さくするよう同じ項目を繰り返し計測し、観測を進めていました。

観測項目のイメージ 赤字の項目を観測し、地磁気の水平、垂直成分(青字の項目)を導く
作成:JARE64 白野亜実

地磁気絶対観測には磁性のあるものは持ち込めません。暖房設備の無い木製の観測小屋で、隊員も金属類を身に着けず約2時間観測を行います。凍てつく寒さに取材する私の方が、心が折れそうになりました。地磁気絶対観測を担当する宙空部門の小池隊員に、どのような想いで観測を進めているか尋ねてみました。「自分が生まれるよりもずっと前から続いている観測の一部を自分が担うことはプレッシャーもありますが、やりがいもあります。また、絶対観測を行うには地磁気が静穏であるという条件があり、条件に適合しているか観測前に確認する必要があります。そのため、観測のチャンスを狙っている日は磁場の変動のグラフをチェックします。一方で、宙空部門の観測としてオーロラ観測があります。オーロラが出ると地磁気は荒れて、その様子が磁場変動のグラフにも表れます。毎日観測データを見ていると、自分の目やカメラを通して見ることができるオーロラと、目には見えない地磁気の変動の関係が身近に感じられて、とても面白いです。

観測開始から2020年までの昭和基地での地磁気絶対観測結果
図:国立極地研究所

昭和基地での地磁気観測の結果は、国際標準磁場モデル(IGRF : International Geomagnetic Reference Field)作成にも貢献しています。また地球上のほかの地点と同様に、昭和基地でも地磁気の絶対値が年々弱まる傾向が見てとれます。これは地球規模の現象を知るために大切なことで、例えば、数万〜数十万年ごとに地磁気の向きが南北で逆転する「地磁気の逆転」と呼ばれる現象を調べるためには、様々な場所で継続して観測された地磁気のデータが必要です。地磁気の観測をはじめ、昭和基地で観測隊が基本観測として取り続けているデータは、地球環境変動のメカニズムを紐解くための土台であり、私たちの貴重な財産となっています。

JARE64 白野亜実)