身近な存在である雲は、気候変化を調べる上でとても重要な研究対象です。雲によってもたらされる降雪は、南極域における氷床や海氷の成長を左右する一方で、雲によって増減する太陽や大気からの放射熱は雪氷面の融解に大きく関わります。また、雲の有無・性質によって南極大陸を取り囲む南大洋の海面水温は変化し、その影響が大気・海洋循環にも及ぶと言われています。64次隊では南極観測船「しらせ」で基礎気象要素の観測と雲生成に関連する大気中の塵(エアロゾル)の採取を行なっています。さらに、雲や大気の鉛直構造を把握するためのリモートセンシング機器、雲粒の数や大きさの鉛直分布を観測できる特殊なラジオゾンデ(無線機と気象観測機器がついた気球)、エアロゾル濃度の鉛直分布を計測するドローンなどを使用して南極域の雲の実態把握を行っています。これらの観測によって気候予測モデルの高精度化に役立つデータが取得されます。
(JARE64 猪上淳)