「しらせ」訓練航海 横須賀~室蘭編

南極観測船「しらせ」は例年、南極へ向けて出航する前の総合訓練として、国内各地を巡航します。航路や準備はこちらをご覧ください。このうち今回は、横須賀~室蘭間の航海についてご紹介します。

横須賀~室蘭の航海には、観測隊長を筆頭に海洋や大気の観測、庶務、広報を担当する隊員や、搭載される装置のメンテナンスや使用法を指導する研究者、技術者等の計27名が乗船しました。横須賀を出航し、房総沖を周り北上し、東北~北海道沖では「しらせ」乗員の支援を受けながら、海洋観測の訓練を行いました。併せて、観測隊長を中心に「しらせ」側と観測・設営計画に係る進捗の共有、実際に南極を往復する航海での生活や行事等について打ち合わせを行いました。今回は私たちにとって身近な日本近海での訓練でしたが、実際は海氷が広がり、気温も低い過酷な南極で観測活動を行うことになります。観測活動と船上生活面の両方において、貴重な訓練の機会となりました。

横須賀を出航し、浦賀水道を航行する「しらせ」。後方には第二海堡が見えます。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年8月30日)
(左)東北沖でラジオゾンデを放球。気球につけたセンサーで上空の気温、湿度、風向、風速等の気象要素を観測しました。
(右)第1観測室で、ラジオゾンデから送られてくるデータを見守る隊員たち。この日は、上空20km付近まで通信が途切れずデータを取得できました。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年8月31日)
船首付近の甲板でしぶきを計測する観測機器を取り付ける隊員たち。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年8月31日)
北海道沖で、船尾の観測甲板からCTD(Conductivity-Temperature-Depth profiler)を投入。CTDは主要な海洋観測機器で、海中の塩分、水温の鉛直分布を観測することができます。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年9月1日)
揚収したCTDから海水をサンプリング。不純物が混入しないよう細心の注意を払います。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年9月1日)
「しらせ」唯一のウェットラボ(海水で濡れたサンプルを扱う研究室)、第4観測室にあったメモ。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年9月1日)

第4観測室のメモにあるように、今回の海洋観測ではCTDによる採水のほか、LADCP( 吊下型音 響流向流速計  )による海中の流れの観測、ノルパックネット、がま口ネットによる動物・植物プランクトンの採集、CPRによる連続的なプランクトン採集に係る訓練等を行いました。今回海洋観測のとりまとめを行った64次隊 村上雅則隊員は、「航海中、何とか天気がもってひと安心。また予定していた海洋観測をすべて実施することができ安堵している。今回の訓練で問題点の洗い出しができたので、本番に向けてしっかり改善し、今後に臨んでいきたい。」と話してくれました。

続けて、私たち庶務隊員の様子を少しご紹介します。庶務隊員は、隊員みなの生活全般のサポートを担います。隊員の皆さんが安心して快適な船上生活を送れるよう通信機器の接続確認のほか、食事や入浴、洗濯、ゴミの分別などルールを確認しながらひとつひとつ実践し、船内生活の習熟に努めました。

イリジウム衛星携帯電話の接続テストを行いました。インターネットから隔離された環境で仕事を行うのに慣れません。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年8月31日)
温かい夕食にほっとします。「しらせ」では食事は各自で食べきれる分だけ盛ります。
食事時には観測隊公室に隊員が集まるので、顔を見て、何か変わりがないか確認します。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年9月1日)

出航前に日本の南に台風発生の情報が入り天候悪化が心配でしたが、幸い大きな揺れに見舞われることなく、充実した航海となりました。早くも9月に入り、秋風が吹き始めました。南極出発まで残された時間はあと少し。抜けのないようしっかりと準備を進めてまいります。
「しらせ」の皆さま、今回も安全な運航と手厚い観測支援をありがとうございました。

「しらせ」訓練航海(横須賀~室蘭)乗船者一同。後ろには地球岬の美しい断崖が見えます。
※写真撮影時のみマスクを外しています。
室蘭に入港した「しらせ」。前方は室蘭港に架かる白鳥大橋 。
撮影:JARE64 白野亜実(2022年9月2日)

(JARE64 白野亜実)