7月7日(木)、日本での投票日よりも一足早く、南極・昭和基地で第26回参議院議員通常選挙の南極投票が行われました。
選挙権は国民の最も重要な権利の一つですが、南極の厳しい自然環境のもとでは他の地域への移動がままならならず、投票用紙の送致を伴う通常の不在者投票の実施は事実上不可能なため、南極投票の制度ができるまでは観測隊員が南極で選挙権を行使する機会はありませんでした。
そして、1956年に1次隊が出発してから50周年の節目にあたる2006年に公職選挙法の一部が改正されたことにより、南極地域観測隊に属する選挙人が職務のために南極・昭和基地に滞在中、または南極観測船(しらせ)に乗船しているときに行われる国政選挙(衆議院議員の総選挙と参議院議員の通常選挙)に、FAXを使って投票することができるようになりました。南極地域観測の60年以上の歴史からすると、南極投票は実は比較的新しい制度なのです。
南極投票を行おうとする選挙人は、日本を出国する前にまず自分が選挙人名簿に登録されている市町村の選挙管理委員会に対して「南極選挙人証」という書類の交付を申請する必要があります。隊長は、全国各地のそれぞれの選管から各隊員に交付された南極選挙人証を取りまとめ、総務省令で指定された選挙管理委員会(今回の場合、東京都の中央区選挙管理委員会)に対してFAXによる投票に用いる「投票送信用紙」の交付を請求します。指定選管から交付された投票送信用紙等は日本から昭和基地へ持ち込み、厳重に保管しておきます。そして、南極地域滞在期間中に選挙期日が公示されると、保管していた書類を開封して南極投票が実施されるという流れになります。
この日は午前9時から順次、不在者投票管理者の澤柿越冬隊長から南極選挙人の各隊員に隊長室で投票送信用紙が交付されました。
選挙区用と比例代表用の2種類の投票送信用紙を受け取った選挙人は、通信室に設けられた投票所の所定の記載台で必要事項と候補者名や政党名を記載したのち、選挙人自身で今回の南極投票の指定選管である中央区選挙管理委員会宛にFAXで送信しました。なお、投票の内容は、指定選管から各隊員が登録されている選挙人名簿の属する選挙管理委員会へ通知されます。
最後にFAX送信が完了した投票送信用紙を専用の封筒に封入し、不在者投票管理者である隊長へ提出して投票は完了です。隊長が預かった投票送信用紙の原本は、来年3月に日本へ帰国してから中央区選挙管理委員会へ提出されます。
国内では気軽に期日前投票を利用することもできますが、南極投票を行うためにはこのように出国前から色々と手続きが必要となります。また、候補者や政党に関する情報を得る手段は、昭和基地ではインターネット以外にはありません。近年では投票先の参考となるボートマッチングサイトなども増えたとはいえ、実際に昭和基地で得られる情報は限られており、投票先の決定には悩ましく感じる面もありました。
一有権者としては日本から約14,000km離れた南極・昭和基地からでも国政選挙に投票できる制度が整備されたことをありがたく思うとともに、投票することの大切さをこれまでで一番強く感じた選挙となりました。
(JARE63 馬場健太郎)