昭和基地を飛び出してS16に!!

越冬開始から3か月が経ち、63次隊でも宿泊を伴う野外作業が始まりました。513日から15日と、26日から28日にかけての2度、23日の予定でS16に行ってきました。S16は昭和基地から東方に約20km離れた大陸氷床上に位置しており、内陸旅行出発拠点として使われています。夏期には海氷が薄くなり、昭和基地と大陸間の海氷上を雪上車が渡れなくなるため、夏期の内陸旅行で使用した雪上車やそり等は海氷が厚くなるまでS16に置いておきます。今回の目的は64次の夏期間に行うドーム旅行の準備です。

作業内容は、①雪に埋まった雪上車やそり、63次夏期間のドーム旅行で使用した雪上車用燃料が入っていた空ドラムの引き出し②極夜明けに昭和基地へ運びやすくするために、引き出した雪上車とそりを大陸の上陸点付近(以下、MS16)まで移動しました。これらの作業と並行して③S16周辺での観測や観測装置の整備等も行いました。

位置関係(地点間を結ぶ実線は通ったルート)
作成:JARE63 佐藤稜也

 

今回は2度のS16作業のうち、筆者が参加した2回目を中心に記してまいります。 

①雪に埋まった雪上車やそり、空ドラムの引き出し
雪の中に埋もれた空ドラムを雪上車に搭載されているクレーンで引き出します。写真で見えている空ドラムだけでなく、雪に隠されて見えないドラムも含めたくさんあります。

埋没した空ドラム
撮影:JARE63 堀川秀昭(2022年5月27日)

ドラム同士の間に入り込んだ雪が凍り付いてしまって、そのままではクレーンで引っ張り上げることができません。そのためハンマーで氷を砕き、空ドラムを取り出しやすくします。全ての空ドラムに対してこの作業をおこなったため、全身が疲れました。さらに、当日は常に10m/sを超える風が吹き、地ふぶきも発生している中での作業となり、余計に体力が削られていきました。

氷をたたき割る様子
撮影:JARE63 堀川秀昭(2022年5月27日)

掘り出したドラムは、②で移動させるためにそりに積載します。引き出したそりの荷台部分にも雪が入り込んでいたのでスコップで雪を掻き出しました。この雪も凍りかかっていたので、削って掘る、を繰り返し、ようやく空ドラムを積み上げることができました。ちなみに、下の写真は16時頃の様子です。作業を終了したくなる暗さでした。

そり荷台に入り込んだ雪の掻き出し
撮影:JARE63 佐藤稜也(2022年5月27日)

 

②引き出した雪上車、そりをMS16まで移動
引き出したそりは雪上車で引いて走ります。S16からMS16までは下って行くため、運転は細心の注意が必要だったそうです。

そりの牽引
撮影:JARE63 堀川秀昭(2022年5月28日)

無事にMS16に掘り出した雪上車とそりを移動させることができました。日没を背景に、ドリフトが着かないように並べたそりを眺めていると今回の任務もがんばったなぁ、と感じました。次は極夜明けに彼らを迎えに来ます。

MS16に並んだ雪上車
撮影:JARE63 佐藤稜也(2022年5月28日)

 

③S16周辺での観測や観測装置の整備
S16から1.6km離れた所にS17があります。ここに積雪深計を設置しました。どのくらい雪が積もったかを日々観測します。観測データを持ち帰る日が楽しみです。

積雪深計の設置
撮影:JARE63 佐藤稜也(2022年5月28日)

S16で雪尺観測をおこないました。観測点には36本の竹竿が雪面に刺さって立っています。全ての竹竿で雪面から竹の上端までの長さを測り、前回の観測値からの差を測ることで雪が積もったか、それとも風で飛ばされたかを観測します。雪面への影響を少なくするために、竹竿の風下側に立って長尺の値を読み取りますが、常に顔面に強風を食らいながら値を読み取って大変でした。常に強風にさらされて立っている竹竿には頭が上がりません。

雪尺観測
撮影:JARE63 中澤文男(2022年5月27日)

今回は平均で約マイナス15℃の寒さに加え風も強かったので、想像以上に疲れました。次の本格的な活動は極夜明けになります。しっかり動けるように、極夜中でもなんとかして体力を維持していかねば、と思いました。

(JARE63 佐藤稜也)