基本観測棟へのバトンタッチ

基本観測棟は昭和基地の中で最も新しい建物です。基地機能の長期的な整備計画に従って、老朽化が進んだ気象棟(第14次隊建設、第61次隊解体)、環境科学棟(第15次建設、第62次解体)、電離層棟(第18次建設、近年中に解体予定)、地学棟(第19次建設、近年中に解体予定)の機能を順次移行しています。

基本観測棟の名称となっている「基本観測」は、南極観測事業の観測カテゴリーの一つで、各省庁が実施する「定常観測」と極地研が担当する「モニタリング観測」の二つからなります。すでに、第60次隊から定常観測のうち気象庁が担当する気象観測が基本観測棟で開始されています。第62次隊では、従来は電離層棟に置かれていた総務省・情報通信研究機構の電離層観測に関わる装置、そして地学棟に置かれていた海上保安庁の潮汐観測に関わる装置が、基本観測棟に移行されました。

基本観測棟への装置搬入作業
撮影:JARE62 吉田夏希(2020年12月21日)
電離層観測新データ転送サーバ(中央)。昭和基地に設置された電離層観測装置の観測データを収集し国内へ送る。
撮影:JARE62 永原政人
潮位観測装置。西の浦験潮所で測定される潮位データを収録して国内に送る。
撮影:JARE62 吉田夏希

装置のスペース、電力量、国内へ送るデータの量、信号ケーブルの取り回し、装置の搬入経路など、あらゆる手順を精査して、第61次越冬隊が必要な事前準備を整えてくれました。搬入や設置にあたっては、移行に伴うデータの欠測をできる限り少なくするように作業工程を調整して、順調に作業は完了しました。

これらの装置は自動化されており、電離層および潮汐の定常観測を主務とする夏隊員が夏期間に装置のメンテナンス等を行い、越冬期間中は、他部門であるモニタリング担当隊員が日常的な点検や障害対応を行っています。

電離層観測は第1次隊(1957年)、潮汐観測は第12次隊(1971年)に開始された観測で、現在、データはほぼリアルタイムで公開され、宇宙天気や海水準変動監視などの目的に国内外を問わず広く利用されています。この先、何十年と使われていく基本観測棟が新たにバトンを受け取った観測です。

 

JARE62 橋田元)